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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
 


「こ、こんばん……は? なぜ課長がここに?」


 遊びに来たわけではなさそうだ。

 水着姿ではなく、私服だ。

 ネイビーブルーの丸みある襟のショールカーデガンに白いVネックの柄のついたTシャツを着て、ベージュ色の細身のパンツをはいている。

 オシャレさんでとてもお似合いだわとか思ってしまったが、考えればここは水着必須の場所だ。なんで私服でしかも土足で堂々と入れるの?


「不健全な通報を頂きまして。後ろを向いて頂けます?」

「不健全?」

「おい、香月。なにを……」


「おや? なんでこんなところにキスマークが?」


 背後から、ぞくりとした氷気を感じた。

 ……殺気のような。


「お前だって、してんじゃねぇかよ!」

「それは今までの分のお返しです。鹿沼さん、ふふふ……裸にそんな僅かな布きれで覆ったのを男性に見せびらかして、随分と楽しそうですね」


 水着って言えよ!!

 なんで男性限定なのよ、女性もいるでしょうが!!


「ちょっと、はしたなくはありませんか? いけませんね、すぐそういう格好をして誘惑するなんて」

「ゆ、誘惑!?」

「夏でもないのにそんなの布、纏う意味あるんですか?」

「ここはプールですよ!?」


 布を纏うって、あたし原始人かよ!!


「なんでプールに来る必要が? ん?」


 ひぃぃぃぃぃっ!!

 冷視線で身体が凍りそう!!
 

 なに、なんなのよ!

 このひとなにをしに来たのよ!!


「さあ、帰りますよ。部下の教育は上司がしなきゃ」


 課長があたしの手を取った。


「あ、あの、課長……?」

「あのさ、鹿沼は俺が」


 結城が声をかけた時だった。

 



「黙れ」



 ひぇぇぇぇんっ!!

 このひと怖いよ、結城にもなにぶちギレてるのよぉぉぉ!!

 眼鏡が怖いよぉぉぉぉ!!

 しかし勇者結城はそれで怯まなかった。


「あのさぁ、俺が鹿沼連れてきたの。あなたは昨日まで鹿沼を独占してたんだろう? なんでキレるわけ? こいつにこんなにキスマークつけて、キレたいのこっちなんだけど」


 あたしは逃げたいんだけど!!


「これが健全なやり方ですか?」

「お前はどうなんだよ」


「ちょ、なに喧嘩……」



「「黙れ」」


 あたしにぶちキレなくてもいいでしょう!?

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