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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon

それが聞けないあたしは、結城から手を離してその場で蹲る。
カーディガンから課長の匂いがした。
遠くに見える警察官となにか喋っている課長がぼんやりと……滲んで見えたのは、汗のせいか涙でも出ているのか、よくわからない。
ただ――ここに課長が居た。それが感慨深くて、課長の感触がまだ残る小指をじっと見つめていたら、後ろから結城に抱きしめられた。
「結城っ、見られてる!!」
課長がこっちを見ている気がして、焦った。
「あいつくせぇ。こうやって守っているつもりかよ、ここに来たのも……騎士(ナイト)気取りか。俺は自慢してぇのに、あいつにとってはそれが不健全か。……ここまでするほどの独占欲だって言うのか」
「結城ってば!!」
「あいつの見ているところで、お前を抱きたい」
「な!」
「俺の名前呼ぶお前を、最後まで抱きたい。……あいつに見せつけたいっ」
結城の声が震えた。
「……なんでそんな顔をさせるのが、あいつなんだよ。どうして俺には、満月しかそんな顔をしねぇんだよ……」
「そんな顔って? あたし何か違うの?」
「……無自覚か。誰が言うかよ、くそっ」
……課長は警官と共に既に視界から去り、そこにはもう課長の影すら見えなかった。
置いていかれた寂寥感と、結城を置いてはいけない諦観のようなものに苛まされる。
いつもあたしを引き上げ明るくあたしを守ってくれる結城が、子供が泣いているような頼りなさを見せていた。
置いていくなと縋られている――。
まるで満月の現場を初めて見られた時のように、彼は泣いている気がした。
あの時連れ出した結城は、泣いてあたしを叱り、満月の相手は自分にしろと宣言した通り……それであたしを今まで救い続けてくれたのだ。
結城がこうなっているのは、課長を追ってしまうあたしのせいだと十分にわかればこそ、心が膿んでいるような、じくじくとした鈍い痛みを感じながら、あたしはそこから動くことが出来なかった。
結城に笑って貰いたい、それを強く願えばこそ――。

