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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon

逃げ回ってた専務がおとなしくなったのは、スマホを遠隔操作するなど素人には出来ないこと、課長が専務を助けずにいなくなっていることに事実を看破したようで、そして沙紀さんも、急に笑い出す専務を見て、狂ったとは思わず、こんな緊急時に専務をそこまでさせるのは課長しかいないと思い当たったそうだ。
だから軟禁が解けて部屋から出ても、人権侵害だと警察に訴えることなく、表情を変えずに堂々としている課長に怒ることもなく、専務はにやにやしながら言ったらしい。
「ヒナを無事に受け取れたか?」
「……受け取りました。ご迷惑をおかけしました」
「いや、退屈しなかったから別にいい。それよりヒナは無事だったか?」
「……案の定、オオカミに食べられかけていました。自分がいかに美味しそうなのかまるでわかっておらず、無防備に丸裸でふらふら歩いてるので。他からも狙われていたでしょう」
「ははっ、そうした警戒心のなさはオオカミに刷り込まれているんじゃないか? 案外オオカミの意の通り、オオカミだけに美味しく食べられる準備をヒナ自らしているのかもしれないぞ」
「……渉さん、プログラムにおけるバグ(=欠陥)は、プログラムをまだ組んでいる時の論理的なミスと、プログラムが動いている最中に起きる誤記のミスのふたつあります。オオカミがヒナを美味しく食べるの結末は、そうしないプログラムを組んだ俺にとっては誤記的な……人為的ミスとしか考えられない」
「誤記なら、プログラムを組み直しする必要がない。そこを直せばプログラムは本来の目的で動くと」
「はい」
「じゃあなんだ、お前の作ったプログラムがバギー(=正常に機能しない)だともう判断して、デバッグ(=バグ除去作業)するのか?」
「はい。プログラマーとって、予想外の動きを見せるバグとは長い付き合いになるとは思いますが」
「だけど朱羽。バグは必ず発生するものだ。除去ではなく、違う使い方ねぇか? お前をただのデバッカーにしておく時間がなくなったんだ、実は」
「え? ……なにかあったんですか?」
「お前に電話かけた後、調査結果の電話があって……、向島が精鋭チーム組んで動き出したらしい。一気にたたみかけてくるかもしれねぇ。もって数ヶ月、だな」
「………」
「お前がいるうちに、なんとかしたい」
……と、こっそり聞いていたらしい沙紀さん談。

