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いじっぱりなシークレットムーン
第6章 Wishing Moon
 

 信号が変わり、車が緩やかに動く。


「言いたくないです」


 あたしは沈黙の後、しっかり答えた。


「なんで?」

「結城に失礼ですから。あたしの本音は、課長ではなくて結城にまず伝えるべきが筋だと思います」

「はは……」

 乾いた笑いが聞こえる。

 課長が口端を持ち上げて笑いながら、ハンドルを握っていた。


「正論だ。真剣に言った身とすれば。俺も結城さんの身なら、確かに真っ先に聞きたい。それが誠意だと思うから」

「わかって頂けて嬉しいです」

「……だけど俺としては、なんだかそれで、二週間後をなかったことにされそう」

「え?」

「……靴を一度も履いてきてくれなさそうで。……線を引かれそうな気がしてる」


 あたしを見ないその横顔からは、表情が窺えない。

 鉄仮面にすぐ戻るのが面白くないから、表情を出させたくなる。

 ……ついつい、意地悪したくなる。

 そう、彼が嫌がりそうなことを口にしてしまったのだ。


「はい、実はなかったことにしたいんです」

「――っ!!!」


 突然急ブレーキをかけられ、後続車からクラクションも鳴らされ、追い立てられるように道脇に止まった。

 まるでアクション映画のようだ。


「し、死ぬかと思った……」


 シートベルトをしてはいるから、ドキドキの心臓の方が口から出そうになった。思わず仰け反って落ち着かせていると、カチャリとシートベルトを外す音が聞こえて、課長があたしの顎をとり、激しい口づけをしてきた。

 まるで爆ぜたように――。


「ちょ……か、ちょ……っ」


 貪るような荒いキスに息も出来ない。

 課長の匂いで頭がくらくらしてくる。
  
「んん……し、……ごとっ」

 くっ、この馬鹿力……。

 首がちぎれる!!

「かわせって……言った、のにっ、昨日……だろっ」

 必死で口を離したら、今度は唇をがりがりと噛まれる。

 こんな朝っぱらから、車の中で動物に戻るな!!

 
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