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いじっぱりなシークレットムーン
第6章 Wishing Moon
 

 ***


 社外の異変はすぐ感じ取れた。

 午前十時、最初にアポをとったはずなのに、会社で担当者がいないからと突き返されたのだ。急遽の出張らしい。

「確認怠って今日連絡いれてなかったのはあたしのミスです。次のもちょっと先に確認とりますので」

 一社目は出張中、二社目は今日病欠、三社目は――。


「え、契約を辞める!? 突然どうしてですか!?」

『それはこっちの都合だろうが。とにかく今月ですべてのサービスをやめる。だから会うこともない。以上!』

「ちょ……」


 切られた電話にあたしは絶句する。

「な、なんで……」

 堅い声が運転席から聞こえる。


「恐らく、すべて手が回されているんでしょう。この分だと、全滅だと思っていた方がいい」

「手が回されてるって?」

「向島です。うちの大きな取引先に早々にアクション起こしていたのだと思います。こちらが気づくのが遅かった」

「なんですって!?」

「多分金曜日の江川くんのは、あれが最終警告なんでしょう。ワームなんて簡単に作れるものではないし、今朝……ちょっと気になって彼が作ったというプログラムを見ていたんですが、あのワームは彼の能力を超えている」

「じゃあ彼は、プログラムを作ったんじゃなくて、作られたものをサーバーに入れたということですか?」

「ええ。三橋さんと結婚しようとしていた彼が、うちを解雇される愚行に及ぶはずがない。ふたり……もしくはどちらかが向島に声をかけられ、向島からプログラムを入れるように指示されたのだと思います。見返りは向島開発の正社員とかそんなところでしょう」

「な……」

 向島開発は、忍月コーポレーションと並ぶ一流企業だ。

 忍月同様母体は財閥であるらしく、重電機の製造業が基本だが、最近通信業に手を染めたという噂は聞いたことがある。とにかく安くをウリにして、サービスは疎かになっているとか、ネットの口コミで見たことがあった。

 忍月に吸収されたムーンも、向島を相手にしないといけないというのが腹立たしい。親会社は親会社同士でいがみあってればいいと思うのに。
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