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いじっぱりなシークレットムーン
第6章 Wishing Moon
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戻った社内はがらんとして生彩さを失い、いつもより人数が少ないというのにやけにざわめいているように思った。
そりゃそうだろう。辞める様子も見せてなかった社員達が次々に去り、そして顧客までもが電話一本で去りゆこうとしているのなら。
席の机にバッグを置いたら、杏奈と千絵ちゃんが走ってきて、同時に甲高い声で話される。あたしはふたり分の声でも内容を聞き取れないんだから、聖徳太子なんかなれやしないと内心苦笑しながらも、多分この異常事態を訴えているのだろうと予測して、駄々っ子をあやすようにしていると、FAXのところにいる課長に声をかけられた。
課長の顎の先には結城がいて、結城の横には衣里も既に戻っていて、ふたりに上を指さされた。
社長室へと言っているのだろう。
課長と合図して、結城達が駆け上った後、幼稚園児のような千絵ちゃんと杏奈を置いて社長室に急ごうとすると、階段をあがったところで異様な物体。結城達はよくここを通り過ぎれたものだ。
「うぉぉぉぉぉ」
木島くんだった。
彼がおかしな雄叫びをあげて、床に座り込んでいる。
「どうしたの、木島くん!!」
慌てて課長と駆け寄ると木島くんが顔をあげた。
雄叫びと思ったのは、号泣だったらしい。顔中吹き出る汁という汁が垂れて、正直遠ざけたいくらいの迫力に満ちているけれど、なぜかすり寄ってくる彼は、汁を飛ばして(あたしは思い切り避けながら!)言う。
「課長と主任不在の時くらいは俺頑張ろうとしたんすけどっ、だけど俺っ、止めることできませんでしたっ、俺、自分が情けないっす!!」
次々と辞職願を社長室に突きつけようとする事態を止めようと、木島くんは木島くんなりに頑張ってくれていたのか。