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いじっぱりなシークレットムーン
第6章 Wishing Moon
 

「すみませんっ、俺が不甲斐ないばかりにっ、だから皆辞めてしまいましたっ」

 あたしは笑ってポケットから白いハンカチを出すと、身を屈めて木島くんに渡した。

 ああ、ガタイのいい元ラグビー部のマネージャー、ここで泣いたら駄目じゃないか。……まだあたしは、泣くわけにはいかない。

「主任……。ミスマッチっす。俺、レースのふりふりは似合わないっす!」

「あははは。リアルふりふりを手にして何を言う」

「あれは……ぐすっ、後で洗って返しますので」

 思い切り鼻をかまれた。

 あたしのレースのふりふりハンカチ、目を拭けよ! なんで鼻をかむんだよ!! もうそんなの要らないよ!


「木島くんにそれあげるから。じゃあ、ちょっと課長と社長のところに言ってくるから、早く泣き止んで皆に元気をわけてあげてね! 悲しい顔しちゃだめだぞ」

「了解です。いってらっしゃい、課長、主任」


「……いいんですか、ハンカチ」

 課長に言われた。

「ははは。あれ返された方が困りますし。だったらない方がいいです」

「……ふふ。だったらあなたがハンカチもってくるまで、どうぞ」

 課長は白いストライプがついた、清潔そうな水色のハンカチをあたしのポケットに忍ばせてくる。

「えええ!? だって課長が困るでしょう!?」

「あなたの台詞そのままお返しします。"返された方が困りますし。だったらない方がいいです"」

 鉄仮面のくせに。なに営業用スマイルしちゃうんだよ。

 くっそ~、グラグラなんてしないからね!!

「さっきは無理矢理してしまってすみませんでした。それ、切り裂いても構いませんので」

 それは車内でのキスのことだろう。

「なっ、そんなことしませんってば。元はといえばあたしがからかってしまったのが原因ですし」

「……怒ってもいいんですよ、たとえ上司だろうと」

「うーん、不思議と怒りたいような気分にならないんです。いつも」

 そうそれは率直な意見だったのだ。

「わかった、キスがうまいからだ! 課長の匂いとあのキスに怒る気分もなくなってしまうのかと! あれはちょっとエロすぎて腰に響きますからねぇ」

「……あなたって、随分大胆なことを言いますよね、こういう不意打ちで」


 あ……。


「………」

「………」


 ……あたしと課長は、真っ赤な顔を背け合った。

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