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いじっぱりなシークレットムーン
第6章 Wishing Moon
「つまり、皆から信頼を受けるか、あるいはムードメーカー的存在が怪しいと。プログラム開発部やWEBの内情をよく知る……」
やはりあたしは、コピー機によくいた"彼女"を彷彿せずにはいられなかった。
「社長。あたし、心当たりがあります。彼女が根か、枝葉かはわかりませんが、確認してみてもいいですか?」
「いいぞ。だけど引き留めるな。ここまでになった以上、そいつがどの程度の向島への関与かは関係なく、息の根がかかっていたなら辞めさせる。その上での会話になる」
「わかりました」
「陽菜、それ誰?」
「エナジードリンクくれたのよ、金曜日。衣里と同じに、頑張れって」
結城と課長の視線を感じながら、あたしは笑った。
***
階段から降りると、丁度彼女はトイレに立ったところだった。
追いかけるようにしてトイレに入り、洗面所で出てくるのを待つ。
ドアが閉められた個室の中で、抑えた声が聞こえる。
「……うん、大丈夫。疑われてないし。うん、うん。クラウドにちゃんと入れてる。うん、これからが始まりよ。うん、じゃあね、また後で」
わざとらしい水音がして、個室から出てくる彼女にあたしは声をかけた。
「千絵ちゃん」
彼女はびくっと身体を震わした。
「うわあ、びっくりしたあ。主任、どうしたんですか? 綺麗なお顔が怖いですよ?」
にこにこと彼女は可愛らしく笑いながら、彼女は手を洗う。
嘘つき。電話してたくせに。
「ねぇ、疑われていないってなに?」
「やだなあ、盗み聞きですか? 実は私お友達の誕生パーティーに」
「最初から考えられた言い訳は必要ない。そこまでこの会社が嫌いなの?」
よくコピー機の前に居た彼女は居たんだ。
――私雑用大好きだから、仰って下さい~。コピーやシュレッダーなんでもどうぞ~。
どんなことでも笑顔で受ける彼女は、皆を癒やした。気のつく子だと思っていた。皆から可愛がられている子だと思っていた。
「どうしてそんなこと聞くんですかぁ、主任~」
ふわふわのパーマの髪が揺れる。いつも通りに愛らしい顔で、くすくす笑う。
「ねぇ、千絵ちゃん。あなた、FAXで向島に資料送ってたでしょう」
数回瞬きが繰り返され、くるんと巻かれた睫がぷるぷると震えた。
……笑っているのだ。