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いじっぱりなシークレットムーン
第6章 Wishing Moon
 
「そうだ、主任。主任こそ向島に来ませんか? 兄はあなたを気に入ると思うんですよね。愛人なんてどうですか?」

「断ります!」

「そうですか。いい土産が出来たと思ったのに、それは残念。これから顧客が離れて、会社は倒産する。もし苦しくなったら、私に電話下さい。条件を吞んでくれるなら、私が助けて上げます」

「条件ってなによ」


「課長を下さい」
 


 最初から課長ファンだと確かに千絵ちゃんは言っていた。


「なんで課長?」

「あんなハイスペックなひとなら「断固拒否」」


 自分でも驚くほどの即答だった。


「課長は渡さない」


 きっぱりと言い切ると、千絵ちゃんの顔が歪んだ。


「色恋と会社を同じにするような千絵ちゃんなんかに、課長は渡さない。課長を渡してすむようなものなら、こっちが切り抜けるから。甘く見ないで」
 

「ははは……。いいんですかあ、そんなこと言って? まだなにが起きたのかもわからないくせに」

「それでも。あたしのスタンスは変わらないから」

「ふうん? でも電話待ってます。主任はきっと課長を渡すから」


 そう笑って千絵ちゃんがドアを開けた、その時だった。

 開けた先に、壁に背を凭れさせるようにして、結城が腕組をしながら立っていたのは。


「え……と、結城課長……」


 さすがに突然過ぎて千絵ちゃんも笑みを作れないようだ。


「香月課長が簡単にお前の元に行くとでも?」

「……っ」

「あいつが黙って鹿沼から引き渡されるとでも?」

「そ、そうなります。会社のために課長は……」


 結城は笑った。とびきりの笑顔で。

 まるでその通りだと言わんばかりの、褒めているような柔和な顔で。

 そして――。


「な!!!」


 パシンッ!!


 その笑顔のまま、千絵ちゃんの頬を平手打ちにしたのだ。
 
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