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いじっぱりなシークレットムーン
第6章 Wishing Moon
目を丸くさせて固まるあたしの前で、結城の顔から笑みが消えた。
「女に手を上げないとでも思ってた?」
代わって見えるのは、
「――俺を見くびるな」
結城の"怒"の顔。
侮蔑したようなその顔を向けられた途端、千絵ちゃんはガタガタ震えた。
「向島と共に、相応の報いは受けても貰う。――行け」
途中転びながら走って出ていく。
あの感じならきっと泣いているだろう。
「に、逃がしてよかったの?」
「もうどうにもならねぇよ。あいつが裏に居たのか」
あたしは頷いた。
「香月使おうなんてアホじゃねぇか。香月は俺も渡さねぇよ。今の会社の要になる奴を、色目使う女になんかやってたまるか! いいか、お前も絶対香月渡すなよ。色仕掛け以外なんでもやっていいから」
「……あたしの色仕掛けなんて無意味だって」
「いや、俺はまいる。やってみ?」
「やりません!」
あたし達は軽く笑い合った。
「ねぇ電話の音、なに?」
「ああ、顧客のHPにランサムウェアを仕込まれた」
「え?」
「振り込み口座がうちのものになっているってよ」
「なんですって!!」
ランサムウェアとは、それを実行してしまうと遠隔でパソコンをロックされ、ファイルまで暗号化されて使えない。元に戻すためには指定口座にお金を振り込めと"ransom(身代金)"を要求される悪質なプログラムのことを言う。
誘拐犯としてうちの名前が出ているのなら、うちの信用はがた落ちじゃないか。
ランサムウェアの被害者だと訴えても、きっとそれを防止できなかったうちの手腕を言われるだけだ。
千絵ちゃんがしていった置き土産とは、このことなのか。
「課長が作ったセキュリティソフト擦り抜けてきたってわけ?」
「クラウドがやられたらしい」
クラウドとは、利用者がネットワーク経由で、クラウドサービス事業者のサーバーに保存してあるファイルであれば、アクセスさえ出来ればどこででも自由に編集等使うことが出来るもので、同じパソコンだけを使わないといけないとか制約はない。
利用者のデータを預かるうちは、いつもセキュリティーに気をつけて居なければならない。