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いじっぱりなシークレットムーン
第6章 Wishing Moon
***
顧客を引き留めておかないといけない事態なのに、千絵ちゃんを通して向島からおかしなことをされてしまった。
一度失墜した信頼は取り戻すのに大変なことはわかっているが、それでも今ここは顧客をフォローしながら、課長が杏奈と共にサイバーテロの如きランサムウェア攻撃を凌いで貰うしかないのだ。
杏奈はプログラム力はあるが、彼女は設計が出来ない。言われたものをほぼ完璧に作るだけだ。
だけど課長は、杏奈同等……いえそれ以上のプログラミング能力を持ちながら、設計が出来るひとだ。しかも頭の中で。
課長は、その場で背広を脱いで、ワイン色のストライプ柄のネクタイを緩め、しゅるりと音をたてて取り始めた。
なんだ、ストリップか!?
そんな周囲の奇異なる視線はなんのその、気怠げな表情の顔を少し傾かせて、きっちりしめていた真っ白なワイシャツのボタンをふたつとった。露わになった鎖骨あたりから、彼独特の色香が漂ってきてくらくらしそうになる。
フェロモンがただ漏れだ!
優等生である彼の着崩した雰囲気は、どこか廃れたような色気を滲ませ、垣間見える彼の……情事に漂うような"男"を感じてぞくりとしてしまう。
さらには前髪を掻き上げてから、袖のカフスボタンをとり、袖を七分袖くらいの長さにまで捲り上げていくその最中、意外に筋肉のついた逞しい腕が見えるにつれ、浮き上がる血管にぞくぞくした。
やば。
あのまま課長にぎゅっと抱きしめられたい。
ふっと気づくと周囲の女子社員も皆ふらふらしながら課長を見ているため、あたしは大きな咳払いをして、あたしを含めて正気に戻した。
社長も二階から降りてきて、腕を組んで背後で見守る中、電話の鳴る音と営業の話し声と、課長と杏奈のカタカタキーボードを打つ音が聞こえる。
さらに言えば、サーバーから繋いだモニターやキーボードで、3つくらい掛け持ちをしながらプログラムを打っている。
モニターでは下から上に英数字と記号がスクロールしていく。
金曜日も思ったけれど、凄まじい早さだ。あたしは日本語入力もここまでの早さのものは打てない。杏奈は特殊だと思ってたけれど、杏奈以上に速度があるかもしれない。それ以上の早さで、プログラムを頭で構成している、ということを思えば、どれだけの頭の持ち主なんだろう。