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いじっぱりなシークレットムーン
第6章 Wishing Moon
だが。
課長と杏奈がなんとか食い止めてくれたものの、ランサムウェアにやられていた三時間は重かった。
プログラムやウイルスなどネットに詳しい者ならば、ランサムウェアを回避できた課長の腕を称えるところだが、なにもわからない素人には課長がなにをしていたのかわからない。
ウイルスのように蔓延する悪質なプログラムがあり、それがネットを作り出すサーバーで動き出し、そのネットを使っているパソコンが動かなくなってファイルも開けなくなった。お金を支払えれば元に戻すという画面はお金を支払わせるためだけのイミテーションなのだと言っても、意味はわからないだろう。
顧客にとってはネットが使えるか、パソコンが使えるかだけの問題であり、その原因がいかに危険性があるのかは、ある程度パソコンに従事している者でないとわからないのかもしれない。
つまり敵が実行した特殊なプログラムが、ランサムウェアという危険度の高いものだったと強調したとしても、顧客には意味がない。顧客が思うのは、三時間パソコンが使えなかったという結果だけなのである。
いかに凄い処理をしたところで、三時間もかかった事実は変わらない。
金を払っているのに、三時間もサービスを中断された……そこを突かれたのである。
さらにその三時間の間に、向島が抱えるIT会社が、セキュリティが高く安価で利用できるクラウドサービスを発表した。
つまりうちのランサムウェア騒動は、先に向島の仕組んでいたことであり、千絵ちゃんはその一手を担っていただけだ。
会社に鳴り響く電話はサービスをやめたいというもの。
そして恐らく向島は、うちの顧客に囁いているはずだ。
安く、安心なサービスを、向島ですべて担います。お試しで変えてみたらどうですか、と。
営業はすべて出払い、社内にいる社員は電話を取り、お詫びとなんとか続けてくれるように説得する。
時にはあたしも課長と共に、向こうの会社に出向くこともあった。
……げっそりとするような日が続き、そして木曜日。
社員は減っていた。