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いじっぱりなシークレットムーン
第6章 Wishing Moon
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出来るのなら、枕営業みたいなことはしたくない。
あの副社長と寝るのはどうしようもなくなった最悪な場合のみと心に言い聞かせても、約束の午後八時が来るまでとても緊張する。
だけどそれを顔に出してはいけないと、身構えれば身構えるほどに、課長の視線を感じて焦ってしまう。
あの茶色い瞳に吸い込まれたら駄目だ。
――この会社は忍月時代に面識があります。都合がつき次第取締役と会ってきます。ここは広げることが出来ると思うので。で、あなたはどうですか?
手札を見せて、あたしに小林商事の結果を聞きたがる課長。課長の視線に気づかぬふりをして電話を取り、皆を励ますようにあたしは笑う、笑う。
「さあ、皆頑張ろうね!!」
……見てる、見てる。課長の視線が追ってくる。
居たたまれなくなってファイルを資料室に戻しに行こうとすれば、すぐ横に立ってファイルの山を半分奪い取ってついてくる。
あなたはストーカーですか!!
戻るわけにもいかず、さっさと棚にファイルを入れて……さあ、後は素早く逃げるべし!
最後のファイルを戻すのは一番上の棚で、背伸びしてファイルを押し込もうとしたら、斜め上からすっと手が伸びてファイルが吸い込まれるようにして整列した。
「ありがとうございました。では」
「……鹿沼さん。その異常な元気はなにがあったんですか?」
ファイルの棚に背を凭れさせ、腕を組んだ課長は長い足まで組むように交差させた。
それがモデルのようにサマになっているというのに、眼鏡のレンズがキランと光り、故意的にあたしの行く手を阻む氷壁になっている。
「異常とは失礼ですよ、課長。あたしは元からこうですので」
ひぃぃぃっ、逃さないつもりかよ。
どいてよ、ここは屍体になってもみつからない場所なんだから!