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いじっぱりなシークレットムーン
第6章 Wishing Moon
***
午後七時――。
もう出なければいけない時刻に、結城も衣里も課長も出かけたまま帰ってこない。
もう待ち合わせに間に合わなくなるため、社長にどうしても用事が出来たから今日だけは帰りたい旨を伝え、1階で作戦会議をしている皆に謝った。
「ごめん、本当は帰りたくなかったんだけれど、どうしても行かないといけないところがあるの」
皆だって早く帰りたいだろう。
残業組の中で役職がついているのはあたしだけだ。責任者であるあたしが帰ってどうするんだという罪悪感と憤りを抱えながらも、皆は快くあたしを送り出してくれたのだ。
率先して笑顔で見送ってくれたのは杏奈だった。
今まで会社で腫れ物を触るような扱いをされていた杏奈は、今では会社でなくてはならない戦力となって、酒が入っていないのに皆の輪の中にいる。
皆も、杏奈の奇抜な格好より、その能力をようやく評価し始めた。
それはあたし達の中心となって頼りにしている課長が、杏奈を必要としたからだ。杏奈がどれだけ凄いのか、会社の危機を何度も救っている課長が堂々と必要とすることで証明されたため、杏奈は千絵ちゃんの裏切りのショックからなんとか立ち直り、前を向いて頑張っているのだ。
「責任感ある鹿沼ちゃんが行かないといけないというなら、鹿沼ちゃんにとってすっごく大切な場所だと思う。それを我慢しろというほど、皆は心狭くないよ。ね、皆!! だからそんな困った顔しないで、行った行った!」
「杏奈……」
「そうですよ、主任。ここは俺が頑張るっす! 元ラガーマンのマネージャー、見損なわないで欲しいっす! 俺、どんな臭いものでも洗ってきたっす! だから綺麗にならないものはないっす!」
「木島くん……」
ちょっとたとえがどうかとも思うけど、洗い物が大好きだということはよくわかったよ。