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いじっぱりなシークレットムーン
第6章 Wishing Moon
 

 杏奈が笑って、あたしの背中を両手で押して小声で言った。

「鹿沼ちゃん。ひとりじゃないからね。だから前だけ向いて、接待頑張ってきて!」

「え……?」

「杏奈はサーバーを覗けるのです。杏奈は鹿沼ちゃんの頑張りを応援してるから。だから頑張れ! 危なくなったら逃げるんだよ、会社より鹿沼ちゃんが大事! それは皆も同じだからね?」


 杏奈は知っているのだ。

 あたしがこれから誰とどこに行くのか。


「元気が出るおまじないだよ、……鹿沼ちゃん、ちーす!」

 杏奈が、かつて千絵ちゃんとやっていたように、ピースを顔の真横につけ、ペコちゃんのように舌を出して、横からあたしを見る。


「杏奈、ちーす」


 だからあたしも頑張って、同じ事をやったんだよ!

 皆が期待の目であたしを見るからさ、だからあたしも頑張ったよ。

 なんだかやり遂げた感がある……そう思っていたら。

「鹿沼ちゃん、反対だよ」

 ……それなのに左右対称で、もう一回やらされたよ!

 二回もこんなことをしたら、肩の力がふっと抜けた。

 あたしはどれだけ緊張していたんだろう。

「杏奈はどんなことがあっても、鹿沼ちゃん応援してるよ!」

「ありがとう、杏奈。また明日、元気に出社してくるからね。じゃあ、今日はごめんなさい!」



 結城と衣里にはLINEを入れ、課長は電話をしたら絶対見抜きそうだから、机の上に早退する旨手紙で記してある。勿論なんのために帰るのか、そこはぼかしてある。

 今夜を頑張ればいい。

 そうしたら、明日はきっと……、皆で笑えるから。

 あたしが出来ることをしよう――。

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