この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
いじっぱりなシークレットムーン
第6章 Wishing Moon
杏奈が笑って、あたしの背中を両手で押して小声で言った。
「鹿沼ちゃん。ひとりじゃないからね。だから前だけ向いて、接待頑張ってきて!」
「え……?」
「杏奈はサーバーを覗けるのです。杏奈は鹿沼ちゃんの頑張りを応援してるから。だから頑張れ! 危なくなったら逃げるんだよ、会社より鹿沼ちゃんが大事! それは皆も同じだからね?」
杏奈は知っているのだ。
あたしがこれから誰とどこに行くのか。
「元気が出るおまじないだよ、……鹿沼ちゃん、ちーす!」
杏奈が、かつて千絵ちゃんとやっていたように、ピースを顔の真横につけ、ペコちゃんのように舌を出して、横からあたしを見る。
「杏奈、ちーす」
だからあたしも頑張って、同じ事をやったんだよ!
皆が期待の目であたしを見るからさ、だからあたしも頑張ったよ。
なんだかやり遂げた感がある……そう思っていたら。
「鹿沼ちゃん、反対だよ」
……それなのに左右対称で、もう一回やらされたよ!
二回もこんなことをしたら、肩の力がふっと抜けた。
あたしはどれだけ緊張していたんだろう。
「杏奈はどんなことがあっても、鹿沼ちゃん応援してるよ!」
「ありがとう、杏奈。また明日、元気に出社してくるからね。じゃあ、今日はごめんなさい!」
結城と衣里にはLINEを入れ、課長は電話をしたら絶対見抜きそうだから、机の上に早退する旨手紙で記してある。勿論なんのために帰るのか、そこはぼかしてある。
今夜を頑張ればいい。
そうしたら、明日はきっと……、皆で笑えるから。
あたしが出来ることをしよう――。