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いじっぱりなシークレットムーン
第3章 Full Moon
 


「!!!???」

「おはようございます、鹿沼主任。そこ、私の席なのでどけて頂けますか」


 ビュォォォォォ

 吹雪を誘う氷の笑み、全開。


 本日も、残酷なほどにお美しい。流した前髪など、ばっちりです。そのスーツブランドものですか? ネクタイもいいですねー。モデルさんもびっくりの精緻に作られた氷の彫刻、今日もいい感じに冷え切ってます。

 黒髪共に、理知的そうに見える眼鏡の奥からの、こちらがのけぞるほどの(思い切りもうのけぞっているけれど)、素晴らしい冷却視線をありがとうございます。人並みの暖かさなど、微塵も感じられません。歩く冷房…超えて冷凍庫です。ヒートアイランド現象の都心を救う、究極のエコです。

 形いい唇は、不機嫌そうに曲がっております。絶対あの唇とあたしの唇が合わさることはないと、断言いたします!!

 昨日のは、やはり気の迷いか揶揄でしょう。

 ……ありえない!


 顔を合せるのがバツが悪いと思っていたあたしにとっては、この変わらぬ無感情……というより悪感情丸出しの冷え切った空気に、安心する。

 大丈夫、あたしは鉄腕OLを演じられる。


「おはようございます。お早いですね、課長。まだ八時前ですが」


 弾かれたかのようにばっと離れて彼と安全距離を作ったあたしは、昨日のこと? なにかありましたっけ?風に、余裕ぶって笑って見せる。

 あたし年上だもん!
 あたしの方が先輩だもん!

 見事な営業スマイル。


 すると苛立ったかのように、彼の片眉が跳ね上がった。

 怖っ!

 美人さんの不機嫌な顔、怖っ!

 あたしただ、早いねと言っただけじゃないか!
 
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