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いじっぱりなシークレットムーン
第6章 Wishing Moon
 
「俺が来なかったら、あなたはあいつに抱かれるつもりだったのか!? そのつもりで俺になにも言わなかったのか!?」

「……最悪の場合は」

 あたしは俯いたままで答える。

「応じてここに来た時点で、最悪だろうが!!」

 そしてあたしの上腕を両手でぐっと掴んで、震える声で言った。

「どんな思いでここに来たと思う!? あいつがあなたに襲いかかっているのを見た、こっちの気持ちを察してくれよ!! 必死の思いで、殴りたいのを我慢していた俺の身になれ!!」
 
「すみません」

「もう二度とこんな真似するなよ!?」

「お約束は出来ません」

「なんで!!」

「会社を守るために必要なら」

「……っ」

「この件は、結城と衣里には言わないで下さい」

「なぜ?」

「あたしがしたことは、営業の沽券に関わることだと思います。結城は自分が仕事をとってきたせいだと嘆くでしょうし、こんな枕営業みたいなこと、同性の衣里に失礼です」

「………」

「小林商事が続行するのは、会長から念書を取った課長のおかげだということにして下さい。課長が会長を連れてきて大団円だということに。実際そうなのですから」

「………」

「わざわざ来て助けて下さったことに、感謝します。本当にありがとうございました。もうこれで……」


「俺の目を見て」


「……っ」

「さっきから俺を見ないのはなぜ? 話を切り上げようとしているのは?」

「ひゃあぁぁっ」

 不意に課長があたしの手を取ったために、身構えていなかったあたしの声が甘くなってしまう。

「鹿沼さん」

「すみません。あたし帰ります。ではまた明日」

「鹿沼さん!」


 課長があたしの手を掴む。ぶるりとあたしの身体が震えた。なんとか出そうな声は抑えたけれど、身体は素直だ。

「あの副社長に飲まされた薬、今どんな症状が出ている?」

 ……やっぱり気づかれたか。
 
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