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いじっぱりなシークレットムーン
第6章 Wishing Moon
 

「……なにも。課長がお水で流し込んで下さったおかげで、あたし動けるようになりましたし。回復していま……んぅぅっ」

 課長があたしの耳を指で弄ったからだ。

 いつも以上の感度になっているあたしは、唇を噛んでぶるぶる震えるしか出来ない。

「こっち見て」

「………」

「陽菜」

 渋々と顔を上げると、生理的な涙で滲んだ課長が怒っている。

「身体が、辛いんじゃないか?」

「……いいえ」

「嘘つけ。そんな顔をしていて」


 課長があたしを抱きしめた。

 突然の抱擁にあたしの口から変な声が出てしまった。


「ここに泊まろう」

「帰ります」

「駄目だ」

「……立つのもやっとなんだろう?」

「………」

「あなたが軽い女ではないことは十分わかっている。ちゃんと二週間まで待つつもりだ。だけど、今のあなたを放ってはおけない」

「大丈夫、だから……」

「無理。俺も泊まる」

「あたし本当に……」

 身じろぎするのも課長は許さない。

「あなたの身体を俺が鎮めてあげる。媚薬で変になった奴を、俺はアメリカで見ている。……あなたをあんな目にはさせたくない」

 あたしの手に課長は指を絡ませる。

「……は、ぅっ、」

「結城さんは呼ばせない。俺があなたとホテルに泊まるから。いいね? 嫌と言われても、決定事項。俺に従って」

 どくどくと波打つ心臓は、彼が欲しいから。


「今日の俺は、どうしてもあなたを置いてひとりでは帰れない」


 だけど、これは媚薬のせいだ。


「……穢れをとってあげるから、あなたの身体を愛させて。あなたに奉仕させて」


 満月とはまた違う吸引力が強い渇望に、あたしは涙を流しながら唇を噛みしめた。

 
 課長と一緒に居たい――。


 我武者羅にそれを感じるのは本当に媚薬のせい?


 課長の匂いに包まれていたい。

 香月朱羽という男と一緒に居たい。

 他の誰でもない、朱羽が欲しい。

 朱羽に身体を愛して貰いたい。

 抗えないこの欲望に呑み込まれる寸前、まだ二週間経っていないから、決して繋がってはいけないと……、それだけをあたしを好きだと言ってくれた……結城への免罪符のようにして。
  
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