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いじっぱりなシークレットムーン
第3章 Full Moon
***
――……まったく寝ていないので。
それはわかった。
だけど、どんなリアクションを求められているのかがわからない。
ひとしきり睨みつけて資料室に向かった年下上司の後ろ姿に、あたしは呆けるしか出来なかった。
確かに暗さと月光で妖しい雰囲気になって、あたしも欲情した。
多分、彼もそうなってとち狂っただろうと思うけれども、それがあたしのせいだと責められ、謝罪を求められているのだろうか。
あたしもムラムラ激しくなってきたから、実は睡眠薬飲んで今日はすっきりなのよと、別れてからのあたし事情を朝から報告せよということなのだろうか。
それとも9年前のことに遡って、詰りたいのだろうか。
だったら、嫌味でもいいからあたしに振ればいい。勝手に怒ってばかりで、一体なにを考えているのかさっぱりわからない。
9年前は過ちだ。上司と部下で会社を盛り立てるのに、それに触れないといけないのなら地雷踏むけれど、なにが嬉しくて自分で彼に自らの罪を告白しないといけないのだ。
わかっているんでしょう?
わざと言わないだけなんでしょう?
だったら忘れてうまくやっていこうよ。
たった一度きりの、あれは過去の……通過儀礼として。
もう同じ過ちは起きない……はずだから。
……多分。
もし満月に、結城がいなくて……香月課長しかいなかったら?
満月は、明日だ。
そして明日まで、あたしは香月課長とふたりきりの残業を、社長に言われている。
「愛しの衣里りん、ちょっと来て」
あたしは保険をかけることにした。
光沢あるグレーのパンツルックで、長くて細い足を強調する色白面長美人が、長いストレートの黒髪を靡かせ、颯爽とフロアに現れると、待ち兼ねていたあたしは彼女の腕を引いて、そのまま奥の休憩室に連れて行く。