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いじっぱりなシークレットムーン
第3章 Full Moon
「なんなの、陽菜」
「出張帰り早々、おはようもお疲れ様も言わず、しかも昨日LINEもブッチしてなんだけれど、単刀直入に衣里に頼みがあるの!」
あたしは両手を合せて、真下衣里に頭を深々と下げた。
「今日と明日、残業して、お願い!」
「は!? なに、私が四国行ってた間に、なにかトラブル!?」
黒髪がさらっと揺れた。すっと伸びたクールな目が、驚きに見開いた。
「トラブルもトラブルなんだけれど、会社じゃなくてあたしのなの! ここでは語れないトラブルが出たの!」
「トラブル解決が、私の残業?」
衣里が怪訝な顔を向けてくる。
「そうなの! 残業代はその後の夕食兼酒、飲みにいこ? あたしのおごりでおいしい焼酎でもボトルで」
シークレットムーンきってのうわばみの衣里。気の強い衣里を堕とすために酒を使った男達は数知れず。すべて衣里に大量の酒を捧げただけで完敗。
大酒飲みを自負していたはずの社長すら、ウイスキーのボトル16本あけさせ、潰したらしい。
幾ら飲んでも二日酔いというものになったことがないらしく、ボトルが二桁になったあたりでほんの少し顔が赤くなるけれど、ただそれだけ。彼女自体は焼酎ロック大好き人間である。
「ボトル!?」
衣里の目がきらきらと輝き、そして気弱なものに変わる。
「いや、だけど営業の残業っていったら、報告書書くか外回りするかで、昨日までの出張報告を既に書き終えている私は一体なにをすれば……」
「なにやってもいいから! あたしに付き合って残業していてくれたらいいの。一緒に残業して、一緒に帰るの」
「つまり、陽菜の手伝いってこと?」
「手伝いと言えばそうだけれど、残業は別々。あたしはあたしの残業、衣里は衣里の残業でお願い」
衣里は腕を組んで首を傾げた。