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いじっぱりなシークレットムーン
第6章 Wishing Moon

 

 ***


「ん……」


 目が覚めたら、あたしは布団をかぶってひとりでベッドに寝ていた。

 寝ぼけた頭がぼんやりと昨夜のことを思い出した。

 隣の気配がない。


「課長……?」


 片側に手を滑らせても、彼がいない。

 冷たいシーツの皺だけが、あたしの指の腹に不快なひっかかりを伝え、彼の生きた体温がないことに、あたしはぞっとして全身から血が引いた。

「どこ!?」

 居ない、居ない。課長が居ない。

 昨日のことがなにもなかったかのような静謐さ漂う部屋で、あたしの服だけが、開け放たれたクローゼットの中でハンガーにかけられている。
 
「どうして課長いないの!?」

 急速に身体が冷える。

 課長の家では、課長は眩しく微笑んで隣に居た。

 なのに今は居ない。
 いつ居なくなったのかわからない。

 一緒に寝起きしたくないと思うほど、あたしは彼を怒らせたり嫌がらせたりしたのだろうか。

 ……もしかして、課長の触って飲んでしまったから?

 だからあたし、課長に嫌われた?

 だからあたし、置いていかれた?


 だからあたし――。


 景色がどっと漆黒色に染まる。

 その中で、危険信号のように点滅するものがある。

 ちかちかと光るそれは、血飛沫のような真紅色で、黒い闇を切り裂くような鮮やかな金へと色を変えて明滅し、次第に大きくなって膨らみ、丸い月となる。

 まるで闇夜に浮かぶ満月のように――。
 
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