この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
いじっぱりなシークレットムーン
第6章 Wishing Moon
闇が騒ぎ、無視の羽ばたきにも似た……ざわざわとしたひとの声のようなものを発する。
――ヒナ、紹介するよ。これは俺の親友の……。
――お姉ちゃん、チサが……。
キーンと頭が痛くなる。
――ヒナ、俺は。
――お姉ちゃん、私は。
――いやあああああ!
うるさい、うるさい。
あたしの名前を呼ばないで。
お願いだから、なにも知らないあの時のように優しくあたしの名前を呼んで、そんなひどいことをしないで。
――おいこら、陽菜。
結城、結城……、満月が。満月があたしを襲ってくる。
どうしていないの、結城、結城――っ!!
――陽菜。
課長……。
――俺の名前を呼んで?
課長。
――俺の名前は?
「朱羽――っ!!」
課長の名前を叫んだら、痛みとざわめきが消えた。
気づくとあたしは、床に蹲り身体を丸め、頭を両手で抱えて泣いていた。
性欲に結びつかない満月のフラッシュバック。
満月に関係した課長に、捨てられたと思ったのが誘発したの?
「薬、飲もう……」
気分を安定させたい。バッグとペットボトルの水が同じところ……サイドテーブルに置いてあるのが見えた。
そしてそこには、きちんと畳まれたあたしの下着と、多分……洗われて乾かされたと思われるあたしのショーツもあった。
ホテルの便箋が一枚、置かれてある。
『おはよう。気持ちよさそうに寝ていたから、先に行ってる。
あなたから具合悪いから遅刻すると連絡うけたことにしておくから、会社で話を合わせて。
本当は昨日の今日で休ませてあげたいけれど、会社はあなたが必要だから来て欲しい。
……一番に俺があなたを必要としている。 香月』