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いじっぱりなシークレットムーン
第6章 Wishing Moon
綺麗な流れるような字で、なにさらさらと"一番に俺があなたを必要としている"なんて書くのよ。
仕事の意味だろうけど、率直に書かれるとラブレター貰ったようで照れるじゃないか。
ただの事務連絡だろうに、アメリカ帰りは表現が大胆で困る。
「だけど……よかった。嫌われているわけではないみたいで。そっか今日は金曜日だ、会社行かなきゃ。十時には滑り込めれるか」
そうほっと安堵の息をつきながら、いい年して"嫌われたくない"なんて悩むあたしを誰かに見られたら、キモいとどん引きされそうな気がして頬肉が引き攣った。
課長と会って二週間弱。今まで傍にいなかったひとなのに、夜を過ごして同じ朝を迎えれなかっただけで、なんで悲壮感を覚えるのか。
こんなことは結城に思ったことがない。
満月を過ぎればあたしと結城は対等で、こんな風に取り乱したり、行かないでと縋りたい気分になったことはない。
なんだか怖いよ、課長がいなくなったら、今在るあたしが駄目になりそうで。
……満月のことを話したくない。
こんな刹那的な気分になるのは、課長に少なからず恋情を抱いているからなのだろうか。
結城なら居なくなってもいい?
「嫌だ」
あたしの心身を支えてくれる結城が居なくなってしまったら、きっとあたしはあたしで居られない。
あたしは恋愛よりもっと深いところで結城を必要としている。
だけど結城はあたしに、終わるかもしれない恋愛関係を望んでいる。
結城にでも不安な恋愛を、なんであたしは課長には理屈抜きに"恋愛している"状態を認め、抵抗していないのだろう。
なんで結城に拒んだものを、課長には素直に受け入れているのだろう。
よくわからない。
結城が居る生活に慣れきってしまっているあたしは、結城がいない生活を想像出来ない。
満月が過ぎた朝、結城がベッドの隣に居なければ、きっとどこか外でタバコを吸っていると最初に考える。
まるで刷り込まれたかのような自信ゆえに、結城の存在は不動なのだ。結城だけは裏切ることがないと。