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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 

「今からならギリだろ?」

 あたしは腕時計を見た。

「……なんとか間に合うけど、あたし遅刻してきて……」

「皆、ケーキ買いに行くのに、鹿沼ちょっと抜けてもいいよな!?」

 賛同するどよめき。そりゃ、食べたいよね、あそこのケーキなら。


「ということで、香月。ちょっとだけ、連れ出す。お前には美味しそうなのこいつに選ばせるから、だからいいか?」


 結城の武器は明るさと人なつっこさ。気づけば結城ペース。

 観衆を味方につけた結城のお願いに、課長は……

「はい、どうぞ。打ち合わせは帰った後にも出来ますから。是非戦利品をお願いします」

 なにも動じることなく、結城にあたしを献上する。

 ……ねぇ、課長。

 結城のお願い聞いているくせに、なんで手を離さないのよ。

 なんでこんなにぎゅうぎゅう痛いくらいに強く握ってくるのよ。
 
「鹿沼さん」

 手のひらに書かれた、課長の指文字。


 "いかせたくない"


「いってらっしゃい」


 文字とは裏腹な言葉で、課長は静かに手を離した――。




 
 ***


 店までは徒歩だ。

 結城とビルを出ながら、結城の機嫌が直って良かったと胸を撫で下ろしていた。いつものようにとりとめのない会話で笑って……それで終わるはずだった。

 店に行く道からそれた横道に強制的に腕を引かれて、細い路地裏のようなところに連れられたのだ。

 しかもそこは奥が行き止まりの一本道。

 結城は壁に背を凭れさせ、奥側にいるあたしが逃げ出さないように、長い足をあたしのお腹あたりまで持ち上げ、革靴を壁につけて通せんぼをした。

「よぅ、鹿沼」

 不機嫌そうな声を出した結城は、腕組をしながら笑った。

 ご機嫌なんて直ってないじゃないか!
 
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