この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
「今からならギリだろ?」
あたしは腕時計を見た。
「……なんとか間に合うけど、あたし遅刻してきて……」
「皆、ケーキ買いに行くのに、鹿沼ちょっと抜けてもいいよな!?」
賛同するどよめき。そりゃ、食べたいよね、あそこのケーキなら。
「ということで、香月。ちょっとだけ、連れ出す。お前には美味しそうなのこいつに選ばせるから、だからいいか?」
結城の武器は明るさと人なつっこさ。気づけば結城ペース。
観衆を味方につけた結城のお願いに、課長は……
「はい、どうぞ。打ち合わせは帰った後にも出来ますから。是非戦利品をお願いします」
なにも動じることなく、結城にあたしを献上する。
……ねぇ、課長。
結城のお願い聞いているくせに、なんで手を離さないのよ。
なんでこんなにぎゅうぎゅう痛いくらいに強く握ってくるのよ。
「鹿沼さん」
手のひらに書かれた、課長の指文字。
"いかせたくない"
「いってらっしゃい」
文字とは裏腹な言葉で、課長は静かに手を離した――。
***
店までは徒歩だ。
結城とビルを出ながら、結城の機嫌が直って良かったと胸を撫で下ろしていた。いつものようにとりとめのない会話で笑って……それで終わるはずだった。
店に行く道からそれた横道に強制的に腕を引かれて、細い路地裏のようなところに連れられたのだ。
しかもそこは奥が行き止まりの一本道。
結城は壁に背を凭れさせ、奥側にいるあたしが逃げ出さないように、長い足をあたしのお腹あたりまで持ち上げ、革靴を壁につけて通せんぼをした。
「よぅ、鹿沼」
不機嫌そうな声を出した結城は、腕組をしながら笑った。
ご機嫌なんて直ってないじゃないか!