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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 
 
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「お待たせ~。さぁ、ハイエナ共、三十分早いのに十三時まで昼休憩に入っていいとの社長のお言葉までとってきた、優しい結城課長に三拝四拍手二拝、ひとり十秒以内!」

「「「三拝四拍手二拝、ひとり十秒以内!?」」」


 あたしの声に社内でブーイングが上がる。

「はい、俺に三拝四拍手二拝しねぇ奴はなしだぞ。十秒以内、間違ったら最後尾! さあ、ケーキのないクッキー1枚の奴は誰かな~?」

 そんなはずはないのに、おやつ用に買ったクッキー1枚を入れて、ケーキをひとつ隠して結城は煽る。

「ちなみに買ってきた俺と、選んだ鹿沼と、鹿沼を貸してくれた香月、そして休憩させてくれた社長は優先的に先に取った。残るは……さあ、誰からだ?」

 結城の前に長い行列。

 皆ケーキの箱を持つ結城に向かって、神道の拝礼ともまた違うでたらめな拝礼で数を間違える様、十秒過ぎる様、上手くいって喜ぶ様は、眺めていて可笑しくて仕方がない。

 あたしが言い出したこととはいえ、結城だから出来ることだ。

 あたしに縋るように想いを伝えた結城の姿は、そこには微塵にも見せない。あたしだけに見せる結城の顔は、きっと誰も想像もしていないだろう。

 それは優越感に浸るというより、切ない。

――あ~、笑うから。だから同情すんなよ、同情するなら愛をくれ。

 そういつものような明るい姿を見せた結城が、無理矢理元気に笑っているのがわかるから。

 思えば会社がこうなって、社員は辞めて重役は休暇を取って投げ出し、痩せていく社長を見て一番堪えているのは結城で、ほぼ寝る間も惜しんであれこれと動いているのに、こんな状況で笑えとは酷な話だったかもしれない。

 だけど結城の笑顔と元気には、皆が癒やされるから。

 皆の力が必要な今、結城に頑張って貰うしかないのだ。


 結城が、あたしと課長の距離が縮まることにあんなに余裕と元気をなくすのなら、少なくとも会社が大変な時くらい、結城側にいて課長とは線を引き、課長とはただの上司と部下でいるのが正しいのかもしれない。

 いや今も上下関係だけれど、あたしが課長を意識しすぎるのだ。前のようにかわせばいいのに、強く出れない自分を自覚している。

 ……戻らなきゃ。最初の時のように。
 
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