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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
「私が結城だったら、"~しないといけない"とか"~だと思うから"なんて言われたら、怒るわ。友情だって欲しいのはそんな義務感じゃない」
「……っ」
「恋愛においても、そういうのは誠意とは言わないよ、陽菜」
衣里がまっすぐにあたしの目を見た。
「それは、ただの同情よ」
「同情?」
「うん。結城を哀れんでいるようにしか思えない。"結城をフッたら結城が可哀想。結城を傷つけたくないから、悲しませたくないから、ちゃんと話を聞いてあげる"」
衣里の言葉が、あたしの心を抉る。
結城の言葉が蘇る。
――あ~、笑うから。だから同情すんなよ、同情するなら愛をくれ。
哀れみだと、同情だと、そう言うの?
結城を傷つけたくないあたしの心は。
「陽菜はあの馬鹿に脅されてるの? 陽菜が付き合わないと、なにか秘密をばらすとか、友達をやめるとか」
「そんなことは!」
「課長にもそうなの? "部下だから上司に服従しないといけない"とか"イケメン上司だからドキドキするのが当たり前だ"とか?」
「そんなことは……」
課長に惹き込まれるあの吸引力は、理屈ではない。
「昔逃したのが惜しくなって執着してる、とかは?」
「それはない! 今は昔と切り離してる」
最初は九年前を意識していた。
だけど今は、今の課長を見ているつもりだ。
「陽菜。頭で考えるものと、頭より心が動くものは違う」
ズキンと、心が痛む。
「両者は一緒にならないよ。一緒だと思い込もうとすることは、結城と課長どちらにも失礼だよ。それに結城が可哀想だからと頭で考えて、結城の傍に居ることを選ぶのなら、課長を切るの? 結城が嫉妬するの可哀想でしょ? だったら、課長と今まで通りは駄目だよね」
ドキッ。
「まあ、陽菜が課長にでれでれして結城が怒って不調和になるのなら、少なくとも会社では課長に営業モードで接せられるよう、今まで通りに線を引くのもひとつの手であることは、私も反対はしない。正直今、会社の危機だから幸せオーラは必要ないから」
……そんなにあたしの顔、でれでれしてたの!?
やばいじゃないか。これは戻さないといけない。