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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
「陽菜、仮に結城を選んだとして、選ばれなかった課長は可哀想に思わないの?」
――結城さんを選ばないで。結城さんの元に行かないで。
「……っ」
胸がぎゅっと絞られるようだ。
あそこまで言われて、結城を選んだら非道な気すらしてくる。
「課長は結城のことなんて?」
「一週間後……どちらかを選んでって言われてる」
「また早いこと。それは付き合いたいということで?」
「いや、それは……」
衣里が大きなため息をついて、ぶつぶつと独りごちる。
「一目瞭然なのに、なんなの!? 陽菜に言わせたいとか!? ヘタレと卑怯者の取り合いなんて、陽菜が不憫だわ……」
「ねぇ、聞こえなかったんだけど」
「いいのよ、聞かなくて。今のあんたでは、どちらかを選ぼうとすれば、選ばれない方が可哀想だからとふらふらして、可哀想の比率が高い方を選ぶことになる。陽菜は涙もろくてお人好しのところがあるから」
否定出来ない。
「あのふたりが求めているのは、"悲劇のヒーローはどちらか"じゃない。それをあんたがそんな基準で選んだとして、陽菜があのふたりだとしたら嬉しい?」
「嬉しくない……」
「そうよね。論点がずれてるのよ、陽菜。それは恋愛を誠意をもって真剣に考えているとは言えないわ。それなら結城も泣く」
「……」
「恋愛から遠ざかっていた陽菜に恋愛を考えろというのは酷な話かもしれないけれど、陽菜は受動ではなく能動で考えていいのよ。どう思われるのかではなく、陽菜が男として意識出来るのは誰? 恋を拒否していた陽菜を、目覚めさせてくれたのは?」
恋に踏み出してもいいと思えたのは――。
「でもね、衣里。結城には本当に助けて貰ってるの、八年も。今のあたしが居るのは結城のおかげなの。結城を失ったら、あたしは壊れる」
「それは課長じゃできないものなの?」
「出来ない……」
満月のあたしを受容して貰えるようには思えない。
「本人にそう言われたの? 自分では無理だと」
「言ってはないけど」
「なんで言ってみないの?」
――満月のこと、香月に言えるのか?
「わかりきっているから。言うだけ無駄よ、逆に言って知られるのが恥ずかしい」