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いじっぱりなシークレットムーン
第3章 Full Moon
 


 結城はニカッと笑う。

 きっとわざわざ仕事を用意したのだろう。営業で仕事があるのなら、香月課長は拒否出来ないからと。

「結城、ありがと~。思い切り奮発しちゃうから! 後でお金下ろしてこよ。久しぶりの同期会だね!」

 衣里が高笑いから戻ってきた。

「はああああ!? 今日だけじゃなくて明日も!? しかも飲みまで一緒なんて……。あんた可愛い陽菜の独占に私をダシにする気でしょ! 陽菜ファンの男性社員に刺されて死んじゃえ!」

 あたしはからからと笑って、やだなあと衣里の腕を手でぱしりと叩いた。

「衣里、結城を刺すような奇特な社員はいないって。それを言うなら、モテモテの衣里りんじゃない。営業先からもお誘い受けてるって聞いてるけど?」

 すると衣里は鼻で笑う。

「なにを言っているのかしら、このちっこいカワウソは。こーんな可愛い顔して、男の視線奪っているくせに、いい年して天然のふり!?」

「カワウソ言うな! いい年言うな! 天然もなにも、男の視線奪うのは衣里りんでしょ!? 結城と衣里が美男美女だから、あぶれた同期のあたしは、こう眩しく見守って……」

 目を細めて、両手を広げて、ほわーんという表情をすると、衣里に無防備なほっぺたを両側に伸ばされた。


「お馬鹿なお口はこれでしゅか~」

「~っ、~っ!!」

「えいえい、お利口なカワウソになりなさいっ!」

「~っ、~っ!!」


「お前ら、本当に仲いいよな~」


 気づけば結城が、椅子の長い背もたれの上、重ね合わせた両手の甲に顎を乗せて座り、こちらを見ていた。

「鹿沼は真下より、俺の方が付き合い長いんだぞ?」


 少しだけ拗ねたような顔で。


「なによ、大学3年の冬からでしょう!? しかも学部違う上に、校舎内で喋る程度だったんでしょ? そんなの近くの他人よ、友達じゃないし!」

「友達……?」


 結城の黒い瞳が、あたしを見た。

 あたしは頷く。


「勿論!」

「友達ね……、ただの……」

 
 前髪を掻き上げる結城の表情は読めない。でもニュアンスからは、歓迎してない気もする。

 そりゃそうだ。

 友達といいながら、衣里にも言えない、友達とは絶対しないことをしている。

 セックスフレンド?

 ……だけどなんかその名称、あたし嫌だ。

 
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