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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 

「主任」

 また机の向こう側から木島くんの生首がぬぅっと出てきて、悲鳴を上げた。

「なんで悲鳴を上げるんっすか!? 俺お化けじゃないっすよ」

 何で下から出てくるんだよ!!

「ああ、ごめんごめん。で?」

「これ、課長からの差し入れっす」

「まあ」

 それは温かいブラックの缶コーヒーだった。

「これで眉間の皺なくして下さい。なんか怖いっすから!」

「眉間の皺!?」

 指で触ってみたら皺がある。老化したと思うのと同じくらいショックだ。

「自覚ないんすか!? サーバー室を睨み付けてうーうー言いながら、眉間の皺。怖いっす!」

「ご、ごめん……」
 
「ちょうど席を立った時に課長が"主任はきっと出来上がるプログラムを心配しているから、差し入れを持って行って安心するように言って下さい"と」

 でれでれの次は、うーうーですか。
 
 心配されて差し入れまで貰うあたしって一体……。

「主任、ファイトっす! 皆いい感じで頑張ってますから! いい奴らばかりが集まって残りましたよ」

「ありがとう、木島くん……」

 こんな時でも、なんで課長が直接ここに来て差し入れしてくれないのかしら、なんて思うあたしは大馬鹿者だ。

 でれでれと言われてから、妙に意識してしまう。

 プルタブを引き上げて、温かなブラックコーヒーを飲んだら、気が引き締まった気がする。

「さあ、頑張るぞ。仕事仕事……」

 あたしはパソコンの顧客管理しているデータベースソフトを開いて、顧客先を条件で抽出しながら、タックシールを印刷をかける準備をした。
 

 課長と結城が、社長を交えて打ち出した、シークレットムーン打開策――。

 それは課長がWEBと営業のために用意したタブレットをもっと広げたようなもので、タブレットだろうがスマホだろうがガラケーだろうがPCだろうがはたまたゲーム機だろうが、ネットに繋がるどんな媒体でも、同じアプリケーションが使えて見て操作できるというマルチプラットフォームに対応したサーバーサービスだ。

 普通WEBですら作った頁は、見る媒体(スマホとかPCとか)によって表示されるものが限定される。レイアウトもそうだけれど、プログラムなどはさらに顕著で、どんなにPCでバリバリ動いていた凄いプログラムでも、スマホに対応していなければ動かない。
 
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