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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
「足の下にあるこれ……薬?」
課長に言われて、足元を見てみたら、確かにぱらぱらとなにかが零れ、ている。
人差し指の第二関節ぐらいの長さの銀色の袋にオレンジの模様と、「オキノーム」と10という文字が見える。
課長がそのひとつをポケットに入れた時、慌ただしい音がして救急隊の人達が担架をもって入ってきた。
社長は酸素マスクをつけられて担架に乗せられ、救急車の中に運搬される。
いつも元気な社長が弱々しくて、泣けてくる。
「木島くん、三上さん。会社をお願いします。私は鹿沼さんと病院へ行ってきます。連絡入れますので」
頷くふたりと不安そうな社員を見ながら、救急車のドアが閉められた。
車内の長いすに課長と座りながら、課長と救急隊員に聞かれたことを答えていくが、あたしには具合悪そうな予兆すら感じなかった。
心電図や血圧のモニターを見ながら、普通より数が少ないことにあたしは怯えてしまう。
課長が社長室で落ちていた薬を差し出した。
「これが落ちていたんですが。袋に書かれてる"オキノーム"は、どんな薬ですか?」
救急隊はそれを見た。
「私は専門家ではないので。これは向こうの医療スタッフに渡しておきます」
「それ、痛み止めではないですか? ……私の知識では、がん患者が突発的な痛みを感じた時に飲む経口投与の頓服だと。そう入院していた時に、知り合った方から教えて貰った気がします。確か名前が、オキノームと」
救急隊員は苦笑する。
「一般的知識から言えば、確かにこれはがん患者に用いられることの多い強度の痛み止めです。ただこれが本当にがんに用いられたのかどうかは、検査をしてみて、搬入先の医者に聞いて下さい」
がん!?
最近痩せていたことは知っていたけれど、まさか病気なんて想像すらしていなかった。