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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 

 あたしが会釈すると、専務は片手を上げて、あたしの隣に座る。

「月代さんはどうなった? 意識戻ったのか?」

 専務は社長を慕っているんだとよくわかる。いつも余裕綽々の専務の顔がいつもより青白く、息も荒い。

「いいえ、まだ検査中です」

 専務はネクタイを緩めて、課長が自分用に買ってきた水を奪うようにして、ごくごくと飲んだ。 

「最近やけに痩せたなと思ってたら、がんが進行していたのか。そんな様子見せなかったからな」

「社長ががんだったなんて……」

 あたしは両手で顔を覆い、嗚咽を漏らした。

「カバ。手術をしたのは、忍月に居た時だ。それでシステム開発とはいえ、一線でばりばり働けなくなったのもあって、ムーンを作った」
 
「でも……元気だったのに!」

「元気そうに見せていただけかもしれないぞ。月代さんは絶対弱音を見せないひとだ」

「……プールで社長に言われたんです。もしも自分になにかあった場合は、結城に後を継がせろと。衣里を泣かせるなと。……言われたのに、長くはないと。だけどそれを冗談にしたのはあたしです」
 
「月代さん、お前にそんなこと言ったのか」

「あの時おかしいと思って病院につれていったなら、入院させていたのなら、社長倒れずにすんでいたのに!」

 冗談にしてしまったのはあたしだ。

「渉さん。社長は強い痛み止めを飲んでいたらしいです。社長室に散乱していたのは、痛みが襲ってきて薬を飲む間もなく倒れたのだと」

「……そんなものを持っていたということは、自覚症状はあったんだな。……倒れたのがやばいものでなければいいが」

 その時、白衣を着た医者が出てきて、月代の家族を探した。

「ご家族ですか? 私は主治医の三浦と言います。症状をお話したいのですが」

「……わかりました。私達は部下なので、家族がくるまでちょっと待って下さい。もう着くと思いますので」

 あたしは言った。結城が聞かないと駄目だ。結城の父親なんだから。

「社長は、月代は無事ですか?」

 専務の声に、医者は固い顔のまま答えた。

「意識は戻っていませんが、いい状態ではないです」

 ……嫌な雰囲気だ。
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