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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
話を聞いた処置室から出たら、結城ががくんと足から力が抜けたようにして廊下で座り込み、頭を抱えた。
「なあ、俺の聞き間違いか? そうだよな、社長は元気だったよな!? 死ぬなんて、そんなこと嘘だろ!?」
涙が出ているのすらわからないのか、真剣な顔で泣きながら見上げてくる結城に、あたしは思わず抱きしめた。
「結城、……それは嘘じゃないよ。あたしも聞いた」
「社長に、親父に!! 俺まだなにもしてねぇのに!」
「結城……っ」
結城の頭を抱きしめるあたしの腕を、結城は掴んでくる。
「俺がもっとしっかりしてりゃ。俺がもっと会社を守ってりゃ! そうしたら親父は倒れないですんだんだ。親父の寿命を縮めたのは俺だ!!」
ありえないくらいの震撼があたしの身体に伝わる。
それをあたしは泣きながら、結城のせいじゃないとなだめるように言いながら、結城を身体で包んだ。
どうか彼の悲しみが少しでも癒やせるように、と。
神様、結城から結城が好きな父親を取らないで下さい。
社長をどうか元気にして下さい。
――おお~い、カワウソ~。
あたしも社長が大好きなんです。
悲嘆に暮れた空気を、突然に衣里の声が裂いた。
「ごめん、遅れた! 社長は!? 社長なんで倒れたの!?」
衣里が汗だくで帰ってきた。
皆の落ち込んだ顔と、泣いているあたしと結城の姿を見て、衣里の足がゆっくりになり、怖いものに近づくように足先が震わせた。
「陽菜、なんなの? ねぇ、なんで泣いてるの? 結城?」
察知した衣里が泣いた。
「なんなの!? ねぇなんなのよ!?」
あたし達だけしかいない待合室に、爆ぜるような衣里の悲鳴が響いた。