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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
***
この病院の上階にあるVIP室に入院出来たのは、ひとえに専務のおかげだ。
――渉さん、もしかして……。
――ああ。ここのはコネがないと駄目だから、緊急でじぃさんに借りを作っちまったけど、月代さんのためだ。皆も夜通しついていたいだろうし。
課長とひそひそ話が聞こえたけれど、専務は凄いおじいさんを持っているらしい。お父さんではないところが不思議だけれど。
まるでホテルのような室内は、シャワー室やトイレだけではなく、ゲストルームまでついていて、リビングようなテレビがある部屋、簡易キッチンまであるダイニングまであり、課長の家の方が素敵だけれど、あたしの家に比べれば断然に大きいし高級だ。
社長はこの部屋で、酸素呼吸を初めとして沢山の管や機械に繋がれて治療を受けているが、夜中になっても目を覚まさない。
炎暑が悪化して呼吸がこれ以上弱くなってくると人工呼吸器に切り替えると言われているので、そうすると社長から言葉を発することが出来なくなる。そうなってしまったら最期の気がして、あたし達はなんとかこちら側に帰ってくるようにと、社長に声をかけて励ましているけれど、現状維持。眠ったままだ。
衣里は泣きじゃくってずっと社長の傍についているし、結城も神妙な顔をして反対側の椅子に座って、無言で俯いたままだ。
あたしより社長との思い出があるこのふたりを見ていたら、涙が止まらなくて、あたしは陽気に振る舞った。……空元気というものだ。
それでもふたりの視線は社長に向いたままで、言葉が消えたままの会話をむなしく思うあたしの頭を、課長だけは静かに撫でてくれる。
なにも言わずに、ただ……頑張れと励ましてくれているように。
課長は、会社ら外部との連絡もすべてしてくれた。課長のおかげであたし達は病室につきっきりでいられる。