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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

午後八時――。
専務はちょっと前に帰った。会社に戻らないといけないらしい。
――カバ、朱羽。うちの忍月は月代さんになにかあるのがわかれば、間違いなく会社ごと切り捨てる。俺が死ぬ気で食い止めるから、打開しろ。
専務が味方でよかったと思う。深く頭を下げたあたしに、専務は笑った。
――朱羽の中での俺の存在が、俺にとっての月代さんなんだ。今の俺がいるのは、月代さんのおかげだ。俺の自己満足なんだから、カバは気にするな。
あたしが結城を必要とし、課長が専務を信頼しているように、衣里だけではなく専務もまた、個人的に社長を必要としている。
細かく考えれば、他者に向かうベクトルの向きは一方的ではなく、誰かかれかから自分に矢印の先端は向いている。
だったら社長のベクトルは、誰に向いていますか?
人間はひとりでは生きられない。
どんなに孤独になっても、必ず差し伸べる手がある。差し伸べる手がある限り、孤独じゃない。本当に孤独なのは、差し伸べられる手に気づかないひとだ。
社長、ひとりで逝こうとしていたなんて酷いじゃないか。
社長が愛する結城のために結城を守るムーンを作ったなら、結城が社長になるところをきっちりと見届けなさいよ。
あたしを入社させてくれたのなら、あたしがもっと成長するところを見なさいよ。会社を建て直すために課長を入れたのなら、課長がどでかいことをして会社を救うまで、ちゃんと見なさいよ。
衣里を笑わせたいのなら、衣里を悲しませないでよ。
専務を可愛がったのなら、専務を社内で孤立させないで、救いに帰ってきてよ。
社員だって、皆心配してる。
あなたは種だけを蒔いて、倒れて終わりのひとじゃない。
こんなに目を覚まさないことで心を痛めている人がいるんだから、ちゃんとその声を聞いて、こちらに戻ってきて下さい。
まだまだあたし達に言いたいことはあるでしょう?
あなたは、あたし達の支柱なんですから。

