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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

午後八時半――。
病室に沙紀さんが現れる。
「渉とバトンタッチ。なにも出来ないけれど、おにぎり作ってきたから、食べて? 少しでも仮眠して。私起きているから」
「ありがとう、沙紀さん。衣里と結城、ずっとあそこで座ったままだから、休憩してと言ってるんだけれど、社長の傍についていたいみたい」
「……そう。だったら、一口でもいいから食べなきゃね。朱羽くん、おにぎりとお茶のペットボトル、あのふたりにお願い。陽菜ちゃんも、嫌でも食べる」
頷いておにぎりを手に取ると、かなり歪なものではあったが、口にしたら美味しくて泣けてきた。
「ごめ……んなさい」
「いいの、いいの。気にしないで?」
沙紀さんがティッシュをくれて、涙を拭いた。
「沙紀さんも、忍月コーポレーションにお勤めなんですよね。社長が直属の上司だったんですか?」
「いや、私は商業高卒で、コネで入った経理でね? いつもいつも部長が無理な出金を言ってきてね、あまりに簡単に言うものだから一度キレちゃった時があって。それから、言い合える仲になったのよ。私もともと毒舌だしね。と、陽菜ちゃん、タメ口でいいから。渉は専務だけど私はヒラ社員だし、同い年のお友達として」
「……わかった。沙紀さんは今も経理なの?」
「今は、渉の秘書よ。無理矢理異動させたのよ、あいつ。公私混同するな!という感じでしょう? 私おおざっぱだし秘書みたいの大っ嫌いだったんだけど、まあ部長にも説得された形で渋々やって、今では経理より長く秘書業してる」
そう笑った時、課長が戻ってきた。
「一口食べているところを見届けてきました」
「よろしい。さすがは朱羽くん」
課長は苦笑している。
「課長が忍月コーポレーションに入った時、沙紀さんは秘書だったんですか?」
「秘書なりたてね。私が渉目の前に、毒吐いてるのを見て、驚いた顔をして見ていたの思い出すわ」
「いやだって、沙紀さんのか弱い見た目とは違い、猛烈な毒だけではなく、渉さんにグーで頬殴ってましたから」
「ああ、女にだらしないから。私そういうの、大っ嫌いなの! 天誅よ。それと私、空手四段、柔道三段なの。護身術が得意!」

