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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

~Wataru Side~
会議が終わった。
議題は、向島の動きとシークレットムーンの今後について。
ビルに救急車が止まって、月代さんを乗せた担架が運ばれたんだ。当然のようにうちの上役達は事情をご存知で、俺と反目している副社長が、月代さんが目を覚めてもいないのに、そんな会議をやると言い出した。
結果は、日々の俺の手回しの方が早かったようで、ムーン買収の話を俺が持ち出した時に、頭ごなしに反対していた……俺の反対勢力の副社長一派を、今日のところはなんとか凌ぐことが出来た。
時間の問題、俺の力の問題。
今後攻め立てられても、シークレットムーンが劇的に変わらないと俺の力が及ばなくなる。維持の説得性がなくなる。
朱羽から連絡を貰った時、俺は車で外に出ていたところで、そのまま東大付属病院に直行した。
お前の方が大丈夫かよと思った……今にも倒れそうな真っ青な顔のカバを見ていると、朱羽がぶっ倒れた昔を思い出した。間近で朱羽が倒れる様を見ていた俺も、あんな様子だったのかもしれない。
今まで生きていた人間から命が喪われる……その瞬間に立ち会うのが、人間にとって一番の恐怖だと思う。
俺だってアメリカで心臓発作を起こして蹲る朱羽を見るのに、慣れることはなかった。
医者や看護師を本気で尊敬するよ。
東大付属病院は、泌尿器科で有名なところで、その噂を知っていた俺は、男性器が不調と零していた月代さんに紹介してみた。
東大付属病院には、死んだ親父がかかっていて、それである程度のことなら知っていたからだ。
それががんだの手術だの言われた時は驚いたけれど、転移はないとがんは落ち着いたと、そう明るく話していたというのに。
月代さんの容態が気になって仕方がない。
無理をさせてしまったことを悔やむ。
――月代さん、お願いがあるんです。俺のワガママなんですが、どうかムーンをうちに下さい。俺が守りますから!
守るなんて口だけだ。
経営がそこまで悪くなかったムーンに、向島で揺らがせてしまったのは俺のせいだ。
……向島が競合する事業の和解案として、何度も欲しがった朱羽を、俺が渡さずにムーンに入れたから。
向島の専務と俺は大学の同期で、仲が良かったのに今は――。

