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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

それでも、もう戻ってこない喪うことの辛さをあたしは知っているから。喪うかもしれないという期間すらなく、否が応でも死の道に引きずり込まれて、なにもできない……人間の無力さを知っているから、涙が出てくる。
……なんで? なんで知ってるの?
そんな不可思議な自問自答を繰り返しながらも、必死な声が届いたのか……、いつも強気な衣里が頷きながら顔を両手で覆いながら泣き出し、あたしもつられてわんわん泣いた。あたし達を慰めようとした結城まで涙を零した。
「くそっ、誰か泣き止めよ!! つられるじゃないか!!」
笑いと泣きが止まらないまま、あたしはふたりを両手で抱きしめた。
「頑張ろう、なにがあろうとも。あたし達はひとりじゃない。あたし達は社長と社長の作った会社を守ろう。あたし達が同期なのは、意味があるよ?」
……やがて、衣里が微笑むようにして眠りについた。
結城が衣里を横抱きにして、ベッドの上に寝かせた。
衣里の傍らにあたしは座って、布団をかけてあげる。
今の衣里は、どこにでもいる……可愛い女性で、社長が衣里に笑っていて欲しいと言っていた意味がわかった気がした。
「さんきゅな、鹿沼。俺、覚悟決めたわ。もうこんな情けないところは見せねぇから」
結城が笑った。その目には確りとした強さがある。
「……惚れ直した」
「はいはい、そんなことを言えるだけの元気が出てよかったです……わっ」
ベッドの上でスプリングが軋んだ音をたてて、座っているあたしの身体がぐらぐらゆれ、あわや衣里の真上に転倒か……と思った時、結城がさっと動いて、後ろからぐいと両手を伸ばして、あたしを捻るようにしてあたしを真っ正面から支えてくれて、事なきを得た。
「あっぶねー」
「あ、ありがとう。もうベッドから降りる。結城もそっちで寝てていいよ。……結城?」
「……一緒に寝よ?」
「結城、ぐずってないでひとりで……」
「傍に居てよ」
縋るような震える声。
「お前が欲しい」
「……っ」
「お前で俺を包んで、俺を安心させろよ。どこにもいかないと」
「………」
「陽菜、お前が好きだ。陽菜……」
結城は顔を傾けて、あたしにキスを――。
……その時、薄く開いていたドアが閉まったのにあたしは気づかなかった。

