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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

***
いつの間にか午前三時過ぎ、沙紀さんはリビングのような部屋のソファで毛布にくるまって寝ているようだ。
課長は、ピッピッと機械音が夜の静寂に響く、社長が寝ているベッドの傍にある椅子に座り、酸素マスクをしている社長の顔をタオルで拭いていた。
上着を脱いでいるものの、結城のようにネクタイを取らずにきりっとしているところが彼らしい。沙紀さんも明るいひとだし、後はあたしの他に結城と衣里なんだし、もう少し崩して素に戻ってくれてもいいのに。
孤立しているように窮屈そうなところを、あたしがわかってあげなければならなかった。迷惑かけるだけかけて放置プレイ。自分が嫌になる。
「課長、すみません。あたし代わりますから、課長寝て下さい。それとも自宅に戻られますか? こっちは人数がいるから……」
「俺、邪魔ですか?」
課長はあたしを見ないで、社長ばかり見ている。口元だけが自嘲気に歪められていた。
「は? 邪魔? 課長のおかげで……」
最後まで言わせずに、カタリと音をたてて課長は椅子から立ち上がった。
「これからは皆さんにお任せします。なにかあったら、電話でも頂けたら……」
あたしを見ないで、横を擦り抜けて出て行こうとする。
「待って下さい!」
あたしは課長の腕を掴んで引き留めると、課長の足が止まる。
さらさらの黒髪に隠れた端麗な顔は、昏く翳っていた。
「あたし、課長が邪魔だとか言いました? それとも誰かそんなこと言ったんですか!? 誰ですか、それは!! あたしから……」
「……あなたはきっと、結城さんを選択する」
抑揚のない、まるで呪いの言葉のように。
「……見てしまいました。あなたと結城さんが抱き合ってキスをしているのを。今結城さんは弱っているし、あなたは優しいから……」
「課長!」
あたしは課長のネクタイをぐっと掴んで、あたしを見ようとしない課長の顔をあたしに合わせた。それでも拗ねたように、長い睫に縁取られた切れ長の目を伏せるだけで、視点を合わさない。
「あたしを見て下さい」
「……」
「見る!」
遅い時間の上に泣いて叫んできたから、思った以上にドスの利いた声が出て、僅かに課長が身じろぎしたような気がした。それでもこちらを見ない。
「朱羽」
名前を呼ぶと、課長が観念したようにあたしを見た。

