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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

「本当にあたしと結城がキスをしていたのを見たの? 本当にあたしが、結城に絆されたことを言ったのを聞いたの?」
「……」
「返事!」
「見たのはキスの直前までで、すぐドアを閉めたのであなたがなんと返事したのかは聞いていません」
あたしは俯くと盛大なため息をついた。
そして顔を上げて、まっすぐ課長を見る。
「よろけたところを助けて貰ってああいう形になったけれど、あたしはキスを拒んできたわ」
「……本当に?」
疑わしそうな目を向けられる。
欲しいのはそんな目じゃないんだってば。
「……丁度衣里にも言われていたせいか、今の状況で結城が可哀想だと絆されるのは、それは友情や同情の類いだとわかるから。結城の傍についていてあげたいとは思うけれど、それは友達として。……そう結城に諭して、寝かしつけてきただけだよ」
「………」
「勘違いして拗ねるくらいなら、まずあたしに聞く!」
「別に拗ねてなんか……」
「返事!」
「は、はい……」
ネクタイから手を離して、あたしは一歩退くと課長に頭を下げた。
「課長が邪魔なんてとんでもない。課長が居てくださって、あたしは本当に心強かったです。課長が居なかったら、あたしはなにも出来なかった。課長が居てくれたから、あたしは同期のふたりに泣いて叫んで、喝を入れる元気を貰えたと、はっきり思ってます。……ここに居てくれて、本当にありがとうございます」
「……俺、役に立ててる?」
「勿論です。会社だけじゃない。あたしが課長の存在に救われています。勝手に必要として頼らせて貰ってます」
課長がふわりと微笑んだ。
歓喜と同時にどこか切なく、見ているあたしの胸を突く。
「もう一回、呼んで? 俺の名前」
「え?」
「役柄じゃ嫌だ」
魅惑的な笑顔に惹き込まれる――。
「……しゅ」
「見てられねー」
それは低く、くぐもった声で。
「今の課長ですか?」
「いいや。え、周り誰もいないけど」
「「もしかして」」
あたしと課長は同時に後ろを振り返った。
そこには酸素マスクを手で外し、途端にピーピー警告音が鳴り響く中、
「よう、カワウソ~」
「社長!!」
にっと笑う社長の姿があった。
午前三時半――。
約十二時間ぶりに、社長が目覚めた。

