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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

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社長が目覚めた連絡を受け、課長から連絡がいった宮坂専務が、背広を脱いだワイシャツ姿のままで、今まで残業していたらしい会社から車を飛ばしてやって来る。笑う社長を見ると、社長に抱きついて男泣きした。
いずれ大勢の人間の頂点に立つだろう男が、子会社の社長を慕って泣く姿は、彼の人柄は温かい人間のものであることを周囲に見せつけ、専務をそうまでさせる社長の人柄も同時に、温かなものであることを知らしめた。
きっとあたし達部下が社長を慕う心よりも、専務の方が強いのだろう。社長にも似て飄々としているけれど、社長が作ったシークレットムーンの存続問題にしても、社長が倒れたことについても、どれだけ心配していたのか……、専務の真情にあたしは気づかなかった。
否、沙紀さんがわかっている。
嗚咽を堪えながら、女神様のように専務を包むようにして微笑み、専務の背中を優しく撫でている様が、恋愛というものを否定して生きていたあたしにとって、羨望の心を生じさせた。
友情のように励ます愛もいいけれど、相手を理解して、なにも言わずとも傍に居られる……そんな関係が、あたしには羨ましく思えたのだ。
怖がって見ないようにしていた過去のものも、なにかいいところはあったはずなのに、それをまるで思い出せずに否定ばかりする自分自身を恨めしく思った。
「いいか!? お、おお……」
いつもはきはきする結城が、社長相手に珍しくどもっている。
「おお?」
社長に聞かれて、咳払いをして言った。
「お、お……起きてちゃ駄目だぞ!」
衣里が盛大なため息をついて、結城の広い背中を思い切り手で叩いた。
「このヘタレ!!」
はは。衣里も気づいたか。
言葉自体をいつものような丁寧語にしていないことから、結城は息子として、社長を"親父"と呼びたいんだろう。彼なりに社長が倒れたことについて考えて。
「いってぇぇぇ!! ちっとは手加減しろよ!」
「うるさいよ、筋肉馬鹿なら筋肉だけが取り柄でしょう! あんたは筋肉までヘタレなの!?」
「そんなむちゃくちゃな……」
いつものような、平和な風景。
笑う結城を斜め後ろから見つめながら、あたしはキスを拒んだ時のことを思い出した。

