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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

「千絵ちゃん、どうしてここに……」
あたしは、異常に思うほどににこやかな笑顔でいられる千絵ちゃんから、悪意しか感じ取れず、社長を庇うようにして警戒した声を出した。
皆もざわめいている。
彼女はうちの会社でもムードメーカー的存在で、彼女の笑顔に癒やされた社員も多かったと思う。嫌な顔をしたことがなく、雑用すら進んで手伝ってくれることに、皆は感謝していただろう。
それがあたしと対峙して結城が頬を叩いた後、彼女は行方をくらますようにしていなくなり、もう既に整頓されていた自席の机の引き出しから、辞職願と書かれた封筒が入っているのがわかった。
結城と、社長に相談した結果、残っている社員を向島に流失しないために、千絵ちゃんの存在を警告として、社長が社員に告げた。
その千絵ちゃんが、目の前でにこにこしている――。
「やだなあ、そんな怖い顔をして。どうしてって、お見舞いにきたんじゃないですかあ。社長が倒れてやっと目が覚めたっていう情報が入ってきたんで。ふふふ、誰からかは内緒です。だって、色々便利なのにわかられたら困りますもん」
くすくすと笑う千絵ちゃんは、スパイがいることを示唆した。
「お久しぶりで~す、社長。心配したんですよ~、ストレスですか? それとも実は余命何ヶ月の、重度のがんとかだったりして。ふふふ」
社長の病気を知っているのだろうか。
でも社員には、胆嚢炎としか伝えていない。この病室に運ばれた時、あたしの同期と課長、そして専務との間で、そう取り決めたから。
あたしはそのメンバーに裏切り者があるとは思えない。スパイがいるとすれば、それは病院関係者としか考えられないのだ。
「そんなわけないでしょう。用がないなら帰って」
衣里が怒りに表情を冷たくさせて、うるさそうに髪を掻き上げながら言った。
「きゃあ、怖いなあ、真下さんは。それに皆からそんな顔をされたら、言いにくくなるじゃないですか。シークレットムーンは無残に潰れるなんて。きゃはっ、言っちゃった」
無邪気な悪魔。そんな気がした。

