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いじっぱりなシークレットムーン
第3章 Full Moon
あたしがふたりを紹介しようとしたら、彼女の手がお腹あたりのところに出て制する。そして、あたしだけが見えるように衣里の口元が愉快そうに持ち上がって小悪魔的なものとなり、好奇心に目がきらきら輝いていた。
「鹿沼の上司、香月課長ですね? 私営業部の……」
クールビューティー衣里の、百戦錬磨の営業スマイル。彼女をキラキラ輝かせるまばゆい光を飛ばせ、薔薇の花を満開に咲かせる。
衣里はあまり自分のことを語ろうとしないけれど、いいところのお嬢さんだったらしい。だからなのか、見よ、この上品すぎる微笑み。手を合せて拝みたくなる。
バチバチバチ、バチ。
キーボードを叩く指が止まった。
あたしは素通り出来ても、衣里から放たれるキラキラは無視出来なかったのか、年下上司はちらりと顔を上げると、衣里の向かい側に立ち上がる。
結城ほどの身長はないけれど、170cmある衣里を見下ろす高身長。160cmないあたしなんか、つま先立ちしても同じ身長になるはずもない。
黒髪に眼鏡。
年下のくせに妙な威圧感。
昔ならまだ線の細いところはあったけれど、今は体格も完成形。
黒髪眼鏡の組み合わせなのか、できる男を印象づけて、一企業の椅子に座ってパソコン弄っているのではなく、海外飛び回ったりもっと王宮みたいなところで悪知恵絞って活躍しているような、もっと舞台は大きいところが相応しい印象がある。
年下じゃないよ。雰囲気だけではなく、態度も。
丁寧語でかろうじて年下だと思い出せる。
怜悧な瞳を細めながら、彼は言った。
「香月といいます。あなたは、鹿沼主任と結城課長と同期の、真下衣里さんですね。いつも凄い営業成績を収められているとか。色々と助けて貰うこともあるかと思いますが、その時はよろしくお願いします」
営業の申し子真下衣里を飲み込む、衣里以上の爽やか営業スマイル。
一瞬にして衣里のキラキラが、課長のキラキラに霞んでしまう。あたしは課長の笑みが、衣里と同じような作為的なものを感じ取る。つまり彼もわかっているのだ、自分の笑顔の威力を。
あたしなんか及びもしないほど、場慣れしているわ、この24歳上司。
童貞じゃなくなったら、覚醒しちゃったのかしら。