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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

「社長!」
「あまりむっちゃん妬かせるなよ?」
「……」
「俺は睦月の親だが……、どちらの味方もする気はない。どちらの事情も闇も俺は知っているから、俺はただ見守るだけだ」
どちらの事情も闇も……社長はなにを知っているのだろう。
「お前はもう、過去の呪縛から解き放たれて、前に進んでもいいはずだ」
「社長?」
「俺はそれしか言えないが、頑張れよ。最後まで見守れればいいけど」
自分のことを、いつの間にか結城と同じ"俺"と呼んで目覚めた社長は、儚げな笑みを浮かべた。
「お前達が触れて来ないから言わなかったけど、お前達……もう俺の身体わかっているんだろう?」
「……はい。あたし達、ショックで大変でした。それなのにぐうぐう寝て起きないし」
「はは。……お前達が俺を呼んでいたから、俺は戻って来れた」
「当然です! 三途の川を渡ってても、連れ戻しに行きますから。あたしカワウソですし! 専務からすればきっと川の水を飲み干すカバですし!」
社長は目に涙をためて笑った。
「あたし達の頑張りを見て、社長も頑張ってください」
「……わかったよ。だけど万が一の時には、頼むな」
プールで言われたことだろう。
「はい。密命受けました。そこはご心配なく。滅茶苦茶しんどくて重い密命ですけど。絶対社長ドSですよ」
「はは。これも愛さ」
「いりませんよ、そんなもの。そんな愛をくれる元気があるのなら、治療を受けて、少しでも長く生きて下さい」
「……ハゲになるのやだ」
「髪より命がある方がいいと思いませんか? そうだ、あたし社長にカツラプレゼントしてあげます。だから大丈夫です」
「どこが大丈夫だよ、カワウソめ!」
「社長は社長です。どんな姿になろうとも、生きていてくれるだけで嬉しい。その心をわかって下さいね」
「………」
俯いた社長の目からなにかが零れたが、あたしは気づかないふりをして、自分の目を手で押さえた。

