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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

「ちょ、いや、あの、杏奈、その……」
必死で弁解しようとするあたしなどお構いなしに、横を向いて椅子に座った杏奈は凄まじい集中力でモニターを見ながら、カタカタとキーボードを打つ。
「あの……杏奈ちゃん?」
聞こえていないようだ。
カタカタカタ……。
弁解が空回り呆けるあたしの手に、課長の手が触れた。その瞬間、奪うようにして手を握られ、ぐいと素早く課長の後方に持っていかれ、杏奈の目から隠された。
「――っ!!」
課長の身体の後ろでは、課長の指が絡んで、イケないことをしているような緊張した背徳感が芽生え、あたしの息が詰まる。
そんなあたしとは対照的に、なにも動じていない課長は斜め上からあたしを見下ろした。まるで流し目を食らったかのような攻撃を受け、さらに表情を崩したあたしに、課長は大人びた顔でふっと笑う。
そして、故意的に視線を下に落とした。あたしも見ろと目で合図を受けて、課長の視線の先を追うとあたしの靴に行き着き、慌てたあたしはぶんぶんと頭を横に振る。
そういう意味じゃないから!
課長がいないと思ったから、はいてきただけで。
だけど課長があまりにも嬉しそうに笑うから、誰にも見せないその笑顔にきゅんきゅんと胸を疼かせてしまったあたしは、思わず俯いた。
するとあたしの長い髪を、下から手で掬うように持ち上げられ、風が通ったと思った瞬間、うなじに熱く柔らかいものが押し当てられた。
反射的にびくりと身体が仰け反り、それが唇だとわかった時にはうなじから離れ、髪が元の位置に戻って揺れている。
「な……」
課長の頭が下がって、あたしの耳元に唇を寄せた。
「可愛い」
鼓膜の奥に、熱い吐息を吹き込むかのように囁かれて、ぞくりとしながら怒って課長を見上げると、姿勢を正した課長はとろりとした目を細めて、整った唇に人差し指をあて、悪戯っ子のように笑っている。
そして後方ではきゅっと手を握られ、あたしは――。
カタカタ、キーボードの音が止まった。
「ふぅ、こんな感じかな、どうかな香月ちゃん」
「ん……ちょっと待って下さい。こうだったら、無限ループ起こします。ここ」
繋げた手を見せぬよう、自らの身体を盾にして、繋いでいない手で悠然とモニターの一点を指す。

