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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

新幹線は静かに走り速度をあげ、窓から見える景色が早送りになる。せっかく窓側にしてくれたけれど、目がちかちかして通路側を向くことにした。
談話のざわめきが周囲から聞こえてくるが、ダークグレー色のスーツ姿の課長はなにか考え込んでいるのか、通路側の肘掛けに肘を置いて、その手の上に憂いある端麗な顔を乗せたまま、静かだ。
畳んだベージュ色のトレンチコートを膝元に起き、その上に片手を乗せながら、その長い足はさりげなく斜めに組まれ、ピカピカの細身の黒い皮靴が宙に浮いているその姿は、美貌のエリートサラリーマンそのもので。
なんでこのひとモデルにならなかったのだろう。
仮に大手紳士服のモデルであっても、こんな写真を見たら男達はこぞって同じスーツを買いに来そうな気がするのに。
しばらく会話がなく、あたしは明るい声を出した。
「課長、喉渇きませんか?」
「大丈夫です」
「お腹はどうです? お菓子食べませんか?」
「いいえ、こちらはお構いなく」
こちらを振り向きもしないで、素っ気ない言葉だけ返る。
こんなに近いところに足も手もあって、ちょっと伸ばせば触れあう距離にあるのに、離れたままのこの距離がドキドキするほどもどかしい……なんて、意識しているのはあたしだけだ。いつも奪われるように手を握られていたから、ふたりきりの時になにもされないのが寂しい……なんて、あたしアホか!
違うの、作戦練るなりなんなりして気を紛らわせていたいのよ。
遊びにいくわけでもないのは十分わかっているけれど、やはり社命かかったところへ契約取りに行くのはあたしも怖いのだ。
契約を考えておいて下さいではなく即断を求めるには、相手が納得出来る理路整然としたものを提示しないと駄目だ。
あたしはそれが出来るのだろうか。
不安でたまらない。
なんで結城か衣里かと課長のタッグじゃ駄目だったんだろう。彼らならきっとうまくまとめるというのに。

