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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

実は課長がくれた靴を履いてきたのは、願掛けでもある。
取引がうまくいきますように、と、打ち合わせがうまく終わったら、発作が始まった……あたしの嫌いなN県の地で、課長に満月のことを打ち明けようと思ったのだ。
金曜日まで日がないし、会社状況がどう変わるかわからない中、そんなことをじっくりと打ち明けられる、ふたりだけの時間は多分もうない気がする。病室だって、社長がまだ回復していないのにそんな込み入ったことを言うのは憚られる。そう思ったら……今日のこの出張しか、話し合えるチャンスはないのだ。
行きである今は駄目だ。あたしの核心を語って平然としていられない。それに課長に嫌がられたまま営業など出来る気がしない。
だから、もしも課長がこんなおかしな性癖を持つあたしを受け入れてくれるのなら、一緒の新幹線で帰り、もしも蔑まれ嫌われたのなら、あたしはひとりで遅れて新幹線に乗って帰ってこようと思ったのだ。
あたしが勇気を出さなければ、金曜日まで時間だけが無駄に経つ。会社も危機ばかりで、そちらに気を集中させたいためにも、いい加減結論を出さないと駄目だ。
約束した通りブルームーンを課長と一緒に迎えるためには、課長に満月の時のことを理解して貰わないと駄目だ。それを言えない状態では課長の下に行けない。結城の言うとおりに。
もし課長に嫌われたとしても、結城に友達で居て貰うために……もう満月の時は頼まないつもりだ。課長に惹かれているこの気持ちごと課長に拒まれたから、結城に抱かれながら同じ気持ちが移行出来るほど、あたしは恋愛体質でもないし、単純には出来ていない。
課長が駄目だからと、結城の愛情を利用して、今まで通り満月に傍に居て貰うなんて、虫がよすぎる話だとあたしでも思うから。
結城を解放する――。
同時に結城を頼りすぎたあたしを立て直した上で、あたしは結城と誰よりも強い友情を築きたい。結城を支えたい。もしも社長に万が一のことがあり、その遺言を実行しないといけない時は、あたしが結城を社長の座に押し上げる。誰よりも理解した友として、なにがなんでも。
ピロンと機械の音がした。
バッグからスマホを取り出すと、今まさに思考の話題の中心に居た結城からのLINEだ。
"緊張してねーか? 駄目元だ、俺が必ず挽回するから、思い詰めるな"

