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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

「……っ」
くっそ~。結城は本当にいい奴だ。
いい奴だから、心が苦しくなる。結城が求めている……課長に対するように、否が応でも惹きつけられる気持ちになれないことに。
こんなに助けられて心がポカポカするのに、なんで課長にしか、触られたいと思わないんだろう。なんで……こんなに僅かな距離でも、開いているのを焦れったく思うんだろう。
こんなことは結城には思えないのだ。今も昔も。
満月以外にでも、ボディタッチだって普通にあったのに、課長のように触られないと意識することはなかった。
結城に抱かれているのに、結城に触りたいと思わなかった。
……苦しいよ。
結城が嫌いなら、楽なのに。
涙が出そうな思いで、それを悟られないように明るく返信した。
"ありがとう。実はガチガチ"
"香月と馬鹿話してろ。愛の話は駄目だぞ!"
"はは、愛どころか課長は、ロダンの彫刻「考えるひと」。こんな上司を横に、寝るに寝れないこの難問、君ならどう解くかな?"
しばらくしてLINE上に写真が送られてきた。
ぶっは。なにこの変顔!
しかも手にA4のコピー用紙なのか、よたよたした字で(多分左手で書いたと思われる)「ヒナちゃん、ふぁいと~!」と書かれてあるものを手にしているのが、余計笑いを誘う。
結城はどこでこんな白目剥いた変顔を自撮りしてるんだろう。イケメン台無しじゃないか。
あたしは笑いを堪えるのに必死だ。
"今真下が帰ってきて、速攻ででかいところのとって来やがった。俺もこれから戦いだ、引き下がらない。お前も頑張れ。健闘を祈る"
そう書かれたものを見ていた時に、衣里からもLINEが来た。
"陽菜~! 私大きいとこ取ってきたよ! すぐ関連会社に紹介してくれるって。私営業頑張るから、あんたは肩の力を抜くんだよ。全部課長にせいにして任しちゃえ(笑)"
ふたりに励まされる。
大丈夫、あたしは出来る。きっとうまく行く。
スマホを額にあて、拝むようにして自分に言い聞かせた。
そして顔を上げ密かに深呼吸。
よし!
……視線を感じて横を向いたら、課長が気怠げな顔でこちらをじっと見ていた。

