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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

「随分楽しそうだけれど、結城さんからですか?」
「結城と衣里からです。あたしの緊張を解こうとしている、励ましのLINEで。そうだ、衣里が大きいところ、契約とってきたようです」
「……」
課長の目が細められ、なにか言いたげだ。
「課長?」
すると課長は眼鏡を外して、目を揉み込んでいるようだ。
疲れているんだ。
「課長、考え中のところ邪魔して失礼しました。どうか引き続き」
課長の眼鏡は元の正しい位置に戻って、いつもの涼やかな顔が苦笑の表情を作る。
「私の癖なんです」
「はい?」
「あらゆる事態を想定してシミュレーションをするのは。私も、任されたものは責任重大だと自覚していましたので」
「は、はあ」
さっきまで無口だったのに、今度は一転して課長は喋る。
「私は気負いすぎていたようです。あなたに負けないようにしようと思うあまり、あなたが緊張しているということを見抜けなかった。いつも通りで出社してきて、皆さんにガッツポーズを見せて会社を出ていけるほど、あなたは平気なものと」
いやいや、あたし同期のようなミラクル優秀な営業じゃないし、ノリっちゅーもんがあるでしょう。皆に声援受けて、「いや、実は課せられた責任の重さにびびって昨日あまり寝れていないんです」なんて言えないでしょう?
「あなたが緊張していたのなら、まずそこに気づくべきだった。……結城さんも真下さんも、あなたが緊張していると悟って激励したというのに、私は隣に居るのに自分のことばかりで、……自己嫌悪です」
「つまり……」
あたしは数回目を瞬かせながら言った。
「課長も緊張している、と?」
「……恥ずかしいですが、正直、いつも通りとはいかない」
口元だけが嘲るようにつり上がる。

