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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

「え? 出張命令下されてからさっきもだって、全然平然といつものように、キランと眼鏡のレンズ光らせていたじゃないですか。昨日社長にも、"必ず取ってきます"の勝利宣言してるし」
「そりゃあ必ず取りますよ、取るためにあなたとタッグ組まされたのなら、余計意地でも取ってきます。だけどそのキランと……の下りは……」
「ああ、余裕ぶっこいて上から目線、と言う意味です」
課長の表情が微妙に歪んだ。
「はぁ……課長も、緊張してたんだ」
「……私は技術畑ですから。人付き合い苦手だし。……わかっていると思いますけど」
「ふふ」
口から笑いが漏れて、肩から力が抜けた。
「笑わないで下さい。ああ、もう恥ずかしい……」
課長が顔に大きな片手をあて、横を向こうとしたから、その腕を掴んで笑った。
「ありがとうございます。……おかげさまで、あたし緊張取れました」
「……私は自分のことを話しただけですが、あなたの緊張がとれたのならよかったですね」
とぼけながら、その笑みは柔らかい。
このひとは聡い。
黙っておけば、泰然とした頼りがいある上司ですんだのに、自らをさらけ出して、あたしはひとりではないと安心させたのだ。
もしかすると緊張していないのに、緊張していると言ったのかもしれない。人付き合い下手だと言いながらも、こうしてあたしに合わせてくれるさりげないところに、胸の奥がとくりと鳴る。
あたし、このひとがいい。
このひとにあたしのすべてを理解して貰いたい。
そう思ったら、目頭が熱くなる。
久しぶりのこの気持ち。
失望させたくないけれど、失望されるかもしれない。隠し通せるのなら、隠し通したい満月の秘密。だけどあたしは、彼に理解して貰いたい。
そう切実に思うから。

