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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 

 ***


 寝たふりをしていたつもりが、本当にうとうとしてしまっていたらしい。

 目が覚めたらあたしは課長の肩に凭れるようにして眠っていて、そんな状況に驚いて、焦って謝った。


「す、すみませんでした。あたし……」

「かなり困りました」


 正面を向いたままの課長が嘆息をついて、顔を垂らし気味にして、縮こまっているあたしを斜めから見下ろした。

 その目に浮かんでいるのは、怒りや呆気ではなく――

「私に寄りかかって眠るあなたの肩を抱こうとしたら、あなたから繋がれたこの手を離すことになる。離さないためにと色々考えていたら、もう目的地に着いてしまいました」」

 からかうような揶揄の光。

「反対の手で繋いでいればよかった。そうしたらあなたを抱きながら、手も繋いでいられたのに。こうやって」

 コートを摘まみ上げられると、指を絡ませて握る手が出てきて、羞恥に飛び上がり、その手を離した。

「離しちゃうんですか? このままでいたかったのに」

 どうしてそんな悲しい声で、拗ねたように言うのよ。

 あたしの母性本能擽るつもり!?

「今まであなたから触れてくれるなんて、滅多になかったから……」

 手ぐらいなんだというのよ。

 まだ手に残る課長の温もりが消えないように、反対側の手で包むように両手を重ねるあたしは、俯き加減でぼそっと言った。

「これからは、たくさんあるじゃない。いろんなとこに」

「………」

「………」

「………」

 うぉぉぉ、あたし今なに言った!

「え?」

 よかった、聞かれてない。

 課長が驚いた顔を向けてくるのと同時に、到着を告げるアナウンスがかかり、あたしは神の采配に感謝した。
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